115 / 185
第二部 第三章 記憶と夢と過去
美しい湖畔と第一王子①
しおりを挟む上空を雲がゆうらりゆうらりと流れていく。
春に萌え出た緑。上を向くと、青葉が空を彩るように広がっていた。
あらかじめ話を通しておいた学園内にある厩舎に出向き、馬一頭借りて私は広野を駆け抜け学園一美しいと言われる湖に向かっていた。
パッカ、パッカとリズムよく駆け回る蹄の音。そのたびに土埃が舞う。
今日の相棒は白の毛並みのジョニーより一回り小さいが茶色でたてがみが黒の立派な雄馬で、名はハーツ。
馬のリズムに合わせていつもより視界が開けて見える景色は、今だけを感じることができ爽快感があった。
「うわぁ。今日は一段と綺麗ね」
天気にも恵まれ見事な景観に思わず声が出る。
底抜けに美しい湖。透明度抜群で周囲の木々が映り込み、どこからどこまでが湖なのかわからない。
「本当に別世界みたい。あなたもそう思うよね」
私に同意を示すように尾を一振りしたハーツに、ふふっと笑みを浮かべる。
降りてロープを木にかけハーツの横腹あたりを優しく撫でていると、サァッと風が吹き葉が擦れささやきあった。
心地よい風と新緑の匂いを堪能すべく目をつぶる。さわさわと木々が会話をするかのような音が、耳に優しく届く。
それからゆっくりと目を開けると、そこで見知った姿を見つけて目を見開いた。
「シモン、殿下?」
湖畔に佇む人物。きらきらと輝く湖の前に立つその姿は、まるでおとぎ話に出てくるような王子様。
実際に身分は王子で、私自身が現実ではない世界に迷い込んだような錯覚を思わせるくらい、周辺が輝いて見えた。
集中しているのかじっと湖畔を眺める姿は、凛としているのにどこか憂いを帯びた姿にも見え、いつ見ても泰然としているシモンの姿と異なる。
──それでも、どんな時も美しい……。
我知らず感嘆する。
王位継承が確実ではないとはいえ、一番近い人物。人となり、能力とともに申し分なく、ほかの王子たちも認めている。
このランカスター国は貴族内で多少の派閥はあるが王族内では王位継承に対してドロドロしたものはなく、どの王子も研鑽しながら相手を認め慢心することがない。
「それって、本当にすごいことだよね」
上が荒れると国も荒れる。
妬み、嫉み、そういったものがないわけではないだろうが、大きな問題となっていないことは平和だということだ。
シモンの双子の弟たちは、兄を尊敬して常にきらきらした眼差しを向けているし、シモンの周囲にまとわりつく姿は本当に天使。
金の髪をふわっふわっさせてダブル攻撃されると、シモンの表情もついつい緩むようだ。
初めて会ってから私にも妙に懐いてくれている双子を思い出すだけで、ふにゅっと頬を緩む。
「ああぁぁぁ~、可愛いんだよね」
耐えきれず独り言を漏らす。
思い出すだけで、ふふふっと笑みを浮かべる姿は怪しいので、声に出して気持ちを収める。
美形率の高いこの世界。その上で可愛さをもつものはほっこりする。
姉から異常なほどの愛を注がれ、嬉しいけれど過剰摂取しすぎてその分注ぎたくなるのか、バランスを取るためか、昔から可愛いものが私は好きだ。
あれから会いに行くたびに、双子は構ってと甘えてくる。
主人に会えて尻尾をちぎれんばかりに振り喜ぶ子犬みたいに駆け寄り、頬にちゅっとキスをされる。
初めはびっくりしたが、双子たちも場所を選んでいるようだし、天使からの祝福のキスだと受け止めることにした。
それだけ懐いてくれていると思うと、どうしても邪険にできない。さすが天使。さすがダブルだ。
ただし、たまに不意を突かれることも多々あるので、ハンカチは必須だ。
──やっぱり、可愛いものには弱いのよねぇ。
癒やしというやつだ。
三人の王子たちは複雑そうに注意するが、天使が聞く耳持たず華麗にスルー。ちょっと小悪魔的なところも愛らしい。
それに、キュウとリンリンという変わった生物が私が足を運ぶと必ず近くにくるので、王城に行く足取りも軽くなった。
あれだけ王族と関わりたくないと思っていたのに、我ながら現金だ。
二匹の生物とともに、いつも帰る際に双子にきゅっと服の端を摘まれ「すぐに会いに来てね。絶対だよ」と請われては、もちろんと頷いてしまうのは仕方がない。
何度も念を押されて約束をすれば反故にはできず、ルイたちとともに頻繁に出向き今に至る。
そんなこんなで、シモンとも学園外でも関わることも増えた。
実際話してみるとちょっとした冗談も口にし話しやすい人ではあるが、いまだ距離を掴めていなかった。
77
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説
私のスローライフはどこに消えた?? 神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!
魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。
なんか旅のお供が増え・・・。
一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。
どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。
R県R市のR大学病院の個室
ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。
ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声
私:[苦しい・・・息が出来ない・・・]
息子A「おふくろ頑張れ・・・」
息子B「おばあちゃん・・・」
息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」
孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」
ピーーーーー
医師「午後14時23分ご臨終です。」
私:[これでやっと楽になれる・・・。]
私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!!
なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、
なぜか攫われて・・・
色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり
事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!!
R15は保険です。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~
よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。
しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。
なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。
そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。
この機会を逃す手はない!
ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。
よくある断罪劇からの反撃です。
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる