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第2章 愛おしい日々

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 次の日の朝、静香がいつもより逸る気持ちのままクラスに着くと、達貴はすでに来ていて吉村と話していた。
 いつもなら友人と話しているときは遠慮するが、今日は久し振りだということもあり彼の元へと向かう。

 何より、静香が教室に入るとすぐに目が合い、逸らされない達貴の視線が自分を呼んでいるようで、それに引っ張られるように足を動かした。
 静香が目の前に立つと、慈しむような眼差しで見つめながら、達貴はふわりと柔らかく微笑む。 

「おはよ」

 いつものように低く軽やかな声だが、その表情は少し疲れて見えわずかに痩せた気もする。
 復帰はしたけれど、顔色が悪く病み上がりだという状態が目に見えて心配になった静香は、覗き込むように達貴を見つめた。

「おはよう。もう大丈夫なの?」
「大丈夫。大丈夫」
「本当? まだちょっとしんどそうだけど」
「ああ、あまり食べられなくて痩せたからそう見えるだけじゃない? こんなのすぐに戻るし」
「だったらいいけど」

 半信半疑で相槌を打つ静香に、読めない表情を浮かべた達貴が静香の瞳を逆に覗き込んでくる。

「心配した?」
「心配しないわけないじゃない」

 何を当たり前のことを聞くのだとちろりと睨むと、達貴は頬に苦笑を浮かべた。

「ごめん」
「いいけど。無理はしないでね」
「何かあったら寄りかかるから大丈夫」

 憂いとともにどこか探るような視線や表情が気になったが、いつものようににっと笑う達貴に、静香も笑いを含んで返す。

「ええー。一緒に倒れてしまってもいいなら」
「それでもいい。だから、今日は出かけよう。土曜のデート俺のせいだけど流れて、それから話すの久しぶりだし」
「うん。私も達貴の体調が大丈夫なら出かけたい」

 達貴のストレートな思いに、静香も柔らかく同じ気持ちだと肯定した。
 すると、ずっと黙って自分たちのやり取りを見ていた吉村が、「ああー、もしもしー」と間に割って入る。

「ねえ、てかさ。ちょっと両方とも何でそんな真顔でそんな会話できんの?」
「何?」

 達貴が軽く目を見張り、吉村へと視線を投げる。静香も、彼の意図がわからず首を傾げた。
 そこで、吉村が自分たちを交互に見ながら、大仰に溜め息をついた。

「はあぁぁぁぁぁー。何かさ、いちゃいちゃするならいちゃいちゃする感じ出してくれないとさ。俺、ここにいてどうしたらいいかと思ったじゃん」
「いちゃいちゃしてるつもりはないし。別にいたらいいだろ?」
「違うって。話の内容」
「内容?」
「もう!! 利恵ちゃんもそう思うだろ?」

 痺れが切れたとばかりに、立っている自分たちの近くの席に座っていた利恵に吉村は話を向けたが、利恵は知らないとばかりに肩を竦める。

「静香たちはこんなもんじゃない?」

 微妙な応答に、三人が顔を見合わせる。

 自分たちっていうのは気になるが、普通に会話をしていたつもりであったので、そこをどう捉えられるのかも人それぞれだ。それに、吉村の態度も別に怒っているわけでもないので深く掘り下げるのはやめた。
 そこで、違うクラスになってしまったが、度々遊びにやってくる聡美が教室に顔を出すと、吉村は彼女を呼んだ。

「おおぉーい。聡美ちゃん、こっち来てー」
「何?」

 嬉しそうにやってくる聡美に、わかってくれるのは君だけだとばかりに吉村は捲し立てる。

「ちょっと、聞いてよ。このカップル、真顔で聞いてる方がうずうずするような会話してるんだよー」
「あーー、そうなんだ。でも、静香たちだしなぁ」
「聡美ちゃんまで!!」
「まで? まあ、静香だもん。その静香と付き合う姫野くんも同じようなところあるなら、何となくは想像つくし」
「そうなんだ?」
「うん。無自覚たらしみたいな?」
「ああ。無自覚ね」
「それそれ」
「うーん。わかるようでわかりにくい」
「まあ、行動や言動が落ち着いてるからわかりにくいよねー」

 笑いながら告げる聡美の言葉に利恵が頷くと、吉村は垂れ目の双眸を細め考えるように顎に手を当てた。
 首を右に左に傾げながら周囲を見回すが、何も気に留めてない静香たちを見て勝手に自己完結する。

「ああ、もう好きにしてくれ」
「好きにしてるけど」

 達貴が飄々ひょうひょうと応答すると、吉村はポンポンと達貴の肩を叩く。

「わぁーた。わかったってば。仲良きことは素敵だねー」

 最後はにっこりと微笑み、静香にウインクをしてみせる。

「ねー」

 聡美が彼の調子に合わせる。
 彼らといると、最後は軽やかに締めてくれるので周囲が明るくなるようだ。
 そこでチャイムがなり、聡美がクラスに戻ると同時に静香も席へ行き、いつもの日常と変わらず授業を受けた。




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