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気になって仕方がない *sideラシェル②

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「ルーシー。お昼を一緒に食べよう」
「放課後はどう?」

 何度も様子を見て声をかけるが、「お誘いは嬉しいのですが、遠慮しておきます」と定型句で断られる。
 そのため、ラシェルもすぐに引くことにしている。
 毎回しつこくしないように、それでいてまた誘うよと告げて会話を終えるのだが、まったく手応えもなく、いつになったら応じてくれるのか見えなかった。望みはとても薄い。

 放課後、ラシェルは生徒会の予算案に目を通しながら、今日も断られたなと小さく溜め息をついた。
 それを耳聡く拾ったアンドリューが手を止めると、興味深げに肘をついてこちらを見た。

「ラシェル。最近、用事がない日も放課後も生徒会室にいることが多いな。何かあったか?」
「んんー。なんかそういう気分というか」

 最近遊んでいないなと問いたかったのだろうが、ラシェルにとってデリケートなことだと敢えて口にされない。
 アンドリューは対外的には爽やかな王子であるが、本来の気質は俺様である。やると決めたら周囲を巻き込み強い意志を持って突き進む。オズワルドとそういうところは似たり寄ったりで、二人がタッグを組むと最強である。

 だが、俺様であっても決して傲慢ではない。
 頭の回転が早く、度量も大きいため、こういったところは気遣いを見せられ、ラシェルは彼らのすることに引っ張られるようについてき、そして気遣いに助けられていた。

「へぇー」

 ラシェルが肩を竦めて大したことではないと伝えると、アンドリューはにやにやと面白そうに笑みを浮かべた。じろじろとラシェルを見る碧色の瞳を、きらりと楽しげに輝かせる。
 ラシェルはへらりと笑い、くるくると右前髪をいつものように指で絡めた。

「なんですか?」
「いや。いいんじゃないか」

 口の端をにっと吊り上げ、アンドリューはじっと意味深にこちらを見つめてきた。
 どうやら、ラシェルがここ最近遊んでいない理由とまではいかなくとも、原因となる人物の存在はバレているようだ。
 確かに、最近のラシェルはわかりやすくルーシーばかりに話しかけにいっているのだから、勘ぐられても仕方がない。

「別にそういうのではないですよ。アリスの被害者だったし、アリスは目に余るし、可哀想だなぁと」
「それはそうだな。なら、彼女を気にかけるのはラシェルがしてあげてくれ。オズワルドも張り切っているし解決までそう時間はかからないとは思うが、ディストラー令嬢の動きは読みにくい」
「…………そうします」

 アンドリューの気遣いと己の気持ちも無視できず、ラシェルは神妙に頷いた。

 それから数日後、いつものように誘ってあっさりと断られた週末にルーシーが男といるのを、しかも頬にキスをするほど仲が良く、そして化粧もバッチリ決めてまるで別人のような格好をしていたところを見て、ラシェルの心はさらに乱れた。

 ヒールを履きいつもより目線は高くなり、なぜか胸が大きくなってはいるが、あの小さな鼻だとか、濁りのない澄んだこげ茶の瞳だとか、いつものそばかすは化粧で見えないがルーシーである。
 ここ最近ずっと見てきたので、わからないわけがなかった。
 身体のラインがわかりやすい服装に、派手めの化粧。それでも誘っているようないやらしさはなく、着飾って綺麗なルーシーの姿がそこにいた。

 衝撃だった。
 地味で目立たない学園でのルーシーは仮の姿なのかと思うほど、いつもと印象が違う。
 想像もしなかった学園外での遭遇に衝撃を覚えながら名を呼び確かめると、ルーシーはキスをするために上げていたかかとを下ろし、ゆっくりとこちらに視線を向けると驚きで目を見開いた。

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