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アリスの被害者 *sideラシェル①

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「私に手伝えることはありませんか?」
「特にありませんね。それよりも、これから大事な会議なので部外者は部屋を出ていってくれるとありがたいのだが」

 碧色の瞳を細めこれぞ理想の王子様のように爽やかな笑顔を浮かべながら、アンドリューがぴしゃりと言い放つ。

「もう。部外者だなんて。アンドリュー殿下やみなさんとは知らない仲ではないんですから私に甘えてくれていいんですよ」

 はっきり断られているにもかかわらず、本日もアリス・ディストラー男爵令嬢は話が通じない。いつ、自分たちと親交を深めたというのだろうか。
 監視しなければならないから大っぴらに距離を取らないようにはしているが、ここにいる者は誰ひとり、彼女と深い話などしたことがない。
 ラシェルは内心溜め息をつくと、にっこりと笑顔で浮かべた。

「アリスちゃんは優しいんだねぇ。でも、本当に今日は忙しいんだ。特に殿下はやることがいっぱいでね。レイジェス、アリスちゃんを送ってあげてくれる?」
「わかった。行きましょうか?」

 この様子では生徒会室の外にぽいっと放り出したところでしつこく絡んできそうであるし、趣味が悪いことにアリスは婚約者のいるレイジェスにエスコートをされることを喜ぶので、彼に任せることにする。
 レイジェスには悪いが、アンドリューに押しつけるのはもってのほかだし、オズワルドは絶対動かない。ラシェルはラシェルで普段から女子と距離が近いので貴重性がないため、必然的にこういうときの頼みはレイジェスになっていた。

 真面目なレイジェスは、その辺りを理解し不満を顔に出すことなく、ひとつ返事で彼女を連れ出していく。
 だが、彼も婚約者のいる身。誤解を生んでアリスのせいで破談になったりでもしたら目も当てられないので、一刻も早く解決したいところだ。

 二人が部屋を出て行くのを見届けると、アンドリューも同じように思ったのか、デスクの上をとんとんと指で叩きながらしみじみと呟いた。

「そろそろ片をつけたいところだな」
「ええ、彼女のせいでヴィアとの時間を邪魔されてきましたので、私も我慢の限界です」

 まったく表情も変えずに淡々と告げるオズワルドのその言葉にアンドリューが楽しげに口の端を上げると、笑いを含んだ声を上げる。

「オズワルドに我慢という言葉があるとは思わなかったが。水面下であれだけ動いていておいて、少しばかりロードウェスター嬢が気の毒だよ」

 先日、オズワルドが懇意にしているシルヴィアの実家である、ロードウェスター伯爵の領地へと足を赴け、彼女の婚約者になることの許しをもらったようだ。
 まさか本人が預かり知らぬところで婚約の話が進み、あとはシルヴィアが了承するだけのところまで整えているというのだから驚きだ。

「彼女に不都合なことは何もしていませんから」
「と言ってもね」

 アンドリューはそこでふっと諦めの息を吐き出した。
 王子が微妙な反応になるのもわかる。
 なにせ、オズワルドは普段から知的だ、クールだなどと言われて、その美貌と相まって何事にも感情を揺らさないと言われている。
 長年一緒にいるラシェルもそれは概ね事実であると思っているのだから、シルヴィアは知らない間にこんなに執着されているとは想像すらしていないだろうし、何も気づいていないだろう。

「ヴィアが本気にしていなくても、彼女には何度か話をしましたし、言質も取りましたので。ヴィアなら受け入れてくれるはずですし逃す気はありませんから。それよりも、ディストラー令嬢のせいでヴィアと学園で過ごす時間が半分以上潰されていることには憤慨です。その上で、ここ最近の目に余る行動。あれだけ空気を読めない方は珍しい」

 光魔法保持者のアリス・ディストラー男爵令嬢は、学園生活二年目になるとさらにわけのわからない言動とともに、自分たちへのつきまとい行為が激しくなってきた。
 彼女の狙いは、見目麗しく高位貴族であることが条件のようだ。あと、承認欲求が強く、自分を持ち上げてくれる相手が好きなようで、次から次へと身分ある男を虜にしていき、学園は荒れに荒れた。

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