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巻き込まれています1

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「ルーシー。これ片付けておいてね」

 あの後、話し合いは平行線をたどり、むしろいつもなら大勢の男性たちがすぐさまアリスをかばいにくるのだが、今日は数人くらいしか彼女に手を差し伸べなかった。
 王子たちが口を出さなかったこともだが、それよりも王子の側近であるオズワルドがシルヴィアに求婚したものだから、クラスはそれどころではなくなった。

 注目されないし、この場をすぐに収められるような権力者は自分を無視するしと、面白くないし納得いかないと暴れたアリスが花瓶を割り、罰にと先生に魔法禁止で片付けを命じられた。
 そのため、ルーシーはすぐさぼろうとするアリスのお目付役としてこの場にいる。

「でも、これはアリスが任されたものでしょう?」

 ルーシーは押しつけられたモップと箒を押し戻してみたが、さらにぐいっと身体に押しつけられる。
 二本がルーシーの手元に来た時にぱっと手を離されたので、ついつい反射的に持ってしまったことに眉を寄せた。

「でも私は悪くないし別にいいじゃない。友達でしょ?」

 ストロベリー色の髪と同系色のピンクの瞳をうるうると潤わせながら見つめられ、ルーシーはそっと視線を逸らした。
 アリスは、『友達』とことあるごとにルーシーにそう言ってくる。
 彼女がその言葉を口にするとき、面倒くさいことをお願いという言葉でルーシーに押しつけるときと決まっていた。

「私は大事な用事があるの。じゃあ、お願いね」
「あっ」

 こちらが了承する前に、むしろやって当たり前でしょとばかりに意気揚々とアリスが去っていく。用事というのも、ここ最近アピールに余念がないのできっとアンドリュー王太子殿下とその側近絡みなのだろう。
 その背中を見送り、ルーシーははぁっと溜め息をついた。

 学園に入学してからというものアリスに振り回されており、久しぶりに晴れ渡った思考での彼女との会話にうんざりした。
 アリスにとっては友達というものは、何でも言うことを聞いて雑用してくれる人くらいにしか思っていないのだろう。

 友達だと言葉のみで縛り付け薄っぺらなものを押しつけてくるクラスメイト。ルーシーののアリスの認識である。
 どういうわけか出会ってからの最初の一年はアリスに視線を合わせながら『友達』と言われると、何でも彼女のしたいことに協力してあげたいと思う気持ちが強くなって、彼女の言われるままに動いていた。

「本当、今までどうかしていたわ」

 そう。今まで。
 教科書騒動が終わるまでの自分は、本当にどうかしていた。

 結局今もアリスの仕出かしの後始末に巻き込まれている状態であるが、諦めながらも理解してやっている今のほうがずいぶんマシだと思うほど、アリスと関わるとルーシーの意思はどこかに行って変な高揚感とともに思考が染められていた。
 自分の気持ちも、していることも、自分が理解していない。そんな気持ち悪い状態が続いていた。

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