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冷徹からの熱愛④

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 それから定期的に限界だとクリフォードにあの手この手で帰ってくることの策を練られたり、クリフォードの過去を知って落ち込んだり呆れたりといろいろあった。
 クリフォードの恋愛絡みの歪みは育った環境と女性の影響が強く、発露の仕方や我慢の仕方がおかしくなっていた。
 周囲と本人の努力で修正してきていているが、よくそこピンポイントに歪んだなと同情と残念さは拭えない。

 好きだと伝えることはそういうことなのだと本気で思っていたとか。祖母と母による歪で窮屈な徹底的な教育と本人に生真面目な資質とアクティブな女性が多すぎた。
 本人は気持ちを抑えることが普通になりそつなくこなすから、友人と猥談などもしたこともなく娯楽も興味ないので、周囲もそういう話をする雰囲気もなくてそこだけ歪なまま。
 
 だから、初めて好きになった私のことに感情を持て余し、義父と母に十八までは我慢しろと言われ、私の二年と言う言葉もあって、そこまでは伝えてはならないとなって「俺自身から守っていた」発言に。
 本当、あり得ない。わかるわけないって思う。
 私と出会っていなかったら一生気づかないものだったと言われて複雑である。

 月日が流れ、侯爵家を出てから三年。結局、二年のところを四年も我慢することになったクリフォードに、さすがに我慢の限界だと連れ戻された。
 今回は義父や母にも挨拶をし、結婚することの承諾を取った。
 これで、晴れて正式な婚約者として私は侯爵家へと再び仲間入りすることになる。

「フローラもうお願いだからそばにいてほしい。出会ったころからずっと気持ちは変わらない。君だけがいい。どうか受け取ってくれないだろうか」

 そして、今、改めてと膝をついて差し出されたのはあの日のネックレスと新たな指輪。

 正直感動した。まともな求婚に。
 成長を見守る母のような気持ちもあったけれど、実際は高ぶりすぎないように敢えてそちらを意識しているだけだ。
 跪かれた時から、本当は心臓がどこどこと高鳴りすぎていつもより呼吸が浅くなって緊張がすごい。

「愛してるんだ」

 当初冷たいと思っていた相手が熱心に見上げてくる。とろりとエメラルドの瞳が熱を孕み、私を熱心に捉えてくる。
 最初の一年は歩み寄り、その次の一年は接触禁止令が出てエスコート以外の触れ合いはなく、そしてこの二年は恋愛小説で知識を仕入れ周囲の恋愛話にも耳を傾け観察したクリフォードはやたらと甘さが増し私に愛をささやいた。

 私の場合は最初の一年は傷ついた心を癒やし、クリフォードを信用するために必要だった。
 その次の一年は、距離を置いて自分のことやクリフォードのこと、関係がどのように変化するのかも含めじっくりと見つめることができた。

 そこで十分だったのだけど、その後の二年はクリフォードを支えるつもりでたくさん学んだ。それをクリフォードは断腸の思い(本人談)で許してくれた。
 ずっと変わらぬ気持ちを向けてもらっていたことはとても大きく、少しずつ確実にクリフォードの存在は異性として私の中で大きくなっていった。

「はい。よろしくお願いします」
「……長かった」
「お待たせしました」

 ネックレスをかけられ指輪をはめ終えると同時に抱きしめられて、すりっと頬に頬を甘えるように擦り付けられる。
 背中に回されていた手は震えていて、緊張してくれていたのだなと思うとそれさえも嬉しくて、そっと大きな背中に手を回した。

「ああ、気が遠くなるほど待った。だけど、俺が間違っていたのは今ならわかる。でもそれでも待たせすぎだとは思うが」
「ふふっ。それはお互い様でいいのはないでしょうか? これからのほうが長いですし、わだかまりがあったまま先に進むよりはこっちのほうがずっといいって思います」

 悩み、傷つき、歩み寄り、呆れたり、ドキドキしたり。
 そして、ずっとそばにいてくれることに、好きだとそばにいようとしてくれる人を信じられること、そして自分にもクリフォードの横で一緒に頑張っていける自信がある今が幸せだと思える。

「触れても?」
「ふふっ。余裕なさすぎです」
「触れたいのはずっと変わらない」

 そう告げるや否や、クリフォードは雄弁に語る眼差しで、近すぎる美貌に慣れず身体を硬直させる私の足を持ち上げベッドの中央へと素早く移動した。
 私はされるがままのしかかってくるクリフォードをただ見つめる。あまりの早業にようやく思考が働き声を出せたのは、しっかりと押し倒された後だった。

「えっ、ちょっと……」

 慌てて起き上がろうとするも、のしりと体重をかけられ阻まれる。

「この時をずっとずっと夢見ていた」

 そう告げ、クリフォードはふわりと私の唇にキスをしてきた。

「……あっ」
「フローラ。ローラ。もっと触れたい。夢みたいだ」

 大人の男の余裕のない掠れた声に煽られる。
 何もかも初めてなのにやはり怖いというよりは嬉しいと思うのは、私もクリフォードのことを好きだから。大事にしたいから。

「クリフォード様」
「クリフと」
「クリフ……」

 お義兄様と呼ぶことはずっと前にやめてくれと言われて名を呼んでいたけれど、婚約者となった今はいいかなと請われるまま私は親しみを込めて愛称で呼んだ。
 それだけのことでも特別で胸が温かくなるようで、ふわりと頬が緩む。

 可愛くてたまらないと笑みを刻んだまま再び触れるだけのキスをし、そのまま触れ合わせたまま告げられる。
 熱っぽい吐息に、瞬きすれば触れる長い睫毛の感触がくすぐったい。
 あまりの近さに顔が茹で上がるのを隠したいのに、緩やかに全身を拘束してくるクリフォードのせいで動けない。

「……その、嫌とかではないのですが、私はこういう経験はなくて、わかっておられるかと思いますが、その、初めてなので」

 今、気持ちは互いに向き合っていると思える。
 それだけの時間を二人で過ごしてきた。それに待たせすぎた自覚はあるので、ここまで待ってもらって今更渋るつもりはない。
 話すたびに息や唇がクリフォードの柔らかな唇を掠め、もう自分ではどういう表情しているのかわからないほどいっぱいいっぱいになった。

 その顔を愛おしげに見つめられ、するりと撫でられる。
 手の感触に、夢ではないのかと丁寧に形を確かめるように何度も撫でられ、あまりの優しい仕草にぞわぞわとした感触がこみ上げてはぁっと熱い吐息が零れた。

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