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甘やかされてばかりは嫌です④
しおりを挟む「二人ともミザリアが困ってますよ」
「困らせてすまない。だけど、これも私の本心だ」
それに対して、私の頭上にそっとキスをして謝るディートハンス様。
どこまでも甘く接してくるディートハンス様を見上げると、その双眸は柔らかに慈しむように私を見ていた。
「それを言われて俺はどうしたら?」
ユージーン様が頭をがしがしとかく。
「あはははっ。初めは見ているこっちが恥ずかしかったけど、ストレートすぎて清々しいというか、ディース様の嫉妬はじめじめしてなくて聞いているほうはなんか楽しくなってきた」
「向けられた俺はそうはいかないんだけど?」
フェリクス様は目尻に涙を溜めながら実に楽しげ笑うと、ディートハンス様、そして私へと視線を移した。
頭上にキスを受けながらのその視線に、私は苦笑するだけだ。
「ディース様は理性的だよね。好きな女性に触れる異性がいたら気になるのは当然だし。今も仕方がないとわかっているから、ただ気持ちを告げただけ。やめろとも言ってないし」
「本当にそれだよ。余計にやりにくいんだけど。確かにミザリアは性格もいいし俺も気に入っているが、総長のは今までと変わりすぎだ」
「それはユージーンもだろう。確かにディース様がこんな甘々になるなんて想像もしなかったが、俺はディース様に大事な人ができたこと自体が嬉しいが」
アーノルド団長がそこで目を細めた。
ディートハンス総長が幼い時からそばにいたと言っていたので、魔力暴走で苦しんでいたことや人と距離を開けなければならないことも含めて、本当の家族のように現在の状況を喜んでいるようだった。
兄のように見守り、ディートハンス様の幸せを願う。
ディートハンス様が幸せだと周囲が認識していることが、私がディートハンス様の横にいることを認めてくれているということで。
こんな会話をしていても、表情は皆明るく穏やかで、それが何よりも嬉しい。
大事に思い合う彼らの温もりが、絆が眩しくて。
そしてその中に自分の居場所があると感じるたびに、胸が熱くなる。
腰を抱かれる腕の力が強くなり、些細な気持ちの変化にも寄りそうような行動にぎゅうっと胸が引き絞られて瞼を伏せた。
「ミザリア」
フェリクス様に真剣な口調で名を呼ばれ、私は顔を上げる。
奥の深さが知れない透き通る湖面のような水色の瞳と視線が交差し、私の肩はぴくりと跳ねた。
フェリクス様は今の幸せに至るきっかけをくれた人。
伯爵家から追い出された先で出会い、騎士団寮の家政婦を薦められた時のことを思い出す。
ただ、あの時のように見定めるような厳しさはなくどこまでも穏やかだ。
「家政婦業はもちろんのこと、ディース様のお世話係はこれからもよろしくね。ディース様の幸せが騎士団をさらに安全安心、そして最強の集団にする。頼むよ」
アーノルド団長が兄のような立ち位置なら、フェリクス様はディートハンス様の友人だ。
そして彼らは主従関係でもあり、ディートハンス様に忠誠を誓うとともに、ディートハンス様の人柄や実力にも惚れており、相当な苦楽をともにしてきたこともあってディートハンス様への思いは強い。
ディートハンス様を大事に思っているフェリクス様に言われてしまえば、私は頷くしかない。
命の恩人でもあり好きな人の幸せを思う気持ちは同じで、周囲がそうすべきだと判断し、何より本人が望んでいるのならと思う。
「……はい」
こうして、私は正式に『総長のお世話係』も追加され、しかもそれには期限もなく半永久的なものとなった。
「リア。これからもよろしく頼む」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
正式なものとなったのならば、今のようにお世話されるだけにならないようしっかりディートハンス様のためになることをしていきたい。
意気込んで見つめ返すと、生気に溢れる綺麗な瞳とかち合った。
溢れんばかりの優しさと、トロリと滲むだけでは物足りず溢れ出る甘さ、そしてほんのちょっとだけ飢えたような獰猛さが覗いている。
熱っぽさはどこまでも甘く溶かすと告げていて、包み込むためならどこまでも手を広げる意志も感じ、最近の手数を思うと心許なくて気合いを入れ直す。
――甘えすぎてしまわないように頑張らなければ。
どこまでも甘いディートハンス様から仕事をすべて奪われないように、家政婦業もお世話係も、そして恋人としても頑張ろうと私は胸に誓った。
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