115 / 127
失ったものと温もり③
しおりを挟む「これからもずっとそばにいてくれるだろう? もうミザリアの何も失わせないし、これからは共に大切なものを増やしていこう。家族も増える。オリビアと仲良くしてくれると嬉しい」
頬をそっと撫で、とどめににこっと滅多に見せない笑顔を見せられて、そのあまりの色気に目を覆いたくなった。
家族をよろしくと告げるのに、なぜこんなに色気を醸し出す必要が?
自然と触れる手も、うっとりさせるような美声も、何もかもとろりと甘くて、胸を熱くさせて、まったく慣れることなくくるとわかっていてもいつも胸を高鳴らせてしまう。
ディートハンス様の全てが甘くて、本人はどうやら無意識に私に触れているらしく、腰に回された手も、頬に添えられた手も、熱い眼差しも、そして言動からして私のことが好きで大事にしたいと物語っていた。
それは当事者の私だけではなく周囲にも伝わり、なんとも微妙な空気が広がる。
誰かこの空気をどうにかしてほしいと助けを求めるようにフェリクス様たちに視線を向けるが、すぐさま目元をすっと親指で撫でられ咎められる。
「戸惑うミザリアも可愛いけれど、返事をしてくれないと不安になる」
うっ、と私は息を詰まらせた。
言えない時は徹底的に黙り素振りさえ見せないのに、隠さないと決めたら常にまっすぐでどの言葉も本気だ。
魔力が多すぎて女性と関わりを持てないため王家の血を残せないと、成人とともにさっさと兄を守る立場として政治的に干渉の少ない騎士団に所属。
ずっと魔力過多のため離れで過ごし姿を見せていなかったこともあり、そのまま病弱で伏せって療養していることにした。
金の髪が象徴である王族であるけれど黒髪は初代英雄と同じ色味で、歴代の黒髪王族は皆多くの魔力を保持し担ぎ上げられるほどだった。
そのため、いらぬ継承権争いに発展させないようにディートハンス様は早々に立場を行動とともに表明したのだ。
有言実行。
どこまでもまっすぐで優しさゆえに孤高となった人を前に、対する側もまっすぐにならざるを得なくなる。
「なぜ、妹をよろしくと話すのにそんな甘い空気になるんですか? もうその辺にしてくださいまし。このまま聞いていたら夜も落ち着かず眠れなくなりそうです」
「それは大変だな。後でハーブティーでも贈ろう。そうだな、アーノルドに持っていかせる」
大変だなと言いながら離れるつもりはないようだ。
ぴったりと私の横につきなんなら先ほどよりもさらに密着させようと無意識に引き寄せているディートハンス様に、オリビア様は口を半開きにして呆れていたが突如笑い出した。
「ふふふっ。まあ! ディースお兄様がそんな気遣いできるようになるなんて愛は偉大だわ」
「私がするのはここまでだ」
「わかっていますわ。当事者次第って言いたいのですね。私もディースお兄様を見習い頑張ります」
話の半分もわからなかったけれど、ディートハンス様の言葉にオリビア様のテンションが明らかに上がった。
「私は私。オリビアはオリビアだ。私は私のできる全てをもってミザリアをそばにいてほしくてやっていることだから」
「そうですか。こんなにもまっすぐに思われて同じ女性として羨ましいけれど大変そうでもあるわね。でも、妹としては大歓迎よ。何よりディースお兄様とこのような話ができることも新鮮だし、よい変化だわ。お兄様は大々的にフォルジュを名乗るなら遠慮する必要もなくなり、公の場でも堂々と私のお兄様だと自慢できるのですから嬉しいわ」
オリビア様の兄を想う気持ちが言葉の端々から伝わる。
魔力暴走が落ち着くまで、家族としての交流はろくに持てなかったと聞いている。
ディートハンス様がコントロールできるようになってからは交流を深めたのだろうけれど、ディートハンス様が苦しんでいる時に遠くで見守るしかできなかった時間はもどかしかったに違いない。
「ミザリアも何か困ったことがあれば頼ってちょうだいね。お兄様をよろしくね」
私を見てにこっと笑った時の目はとても真剣で、オリビア様にたくされた思いに私は親身に頷いた。
それから時間も時間なのでまたゆっくりという話になり、帰り際に私の服をくいっと引っ張ったオリビア様はこそっと耳打ちした。
「私、大好きな人がいるの。今日の突撃はディースお兄様のことがメインだけど、その人と屋根の下で一緒に暮らして守られていると知ってちょっと嫉妬していたの。だから、少し困らせようとしたの。ごめんね」
「いえ。好きな人に女性の影がちらつくと気になる気持ちはわかります」
「まあ。素直ね。いずれバレると思うから先に言っておくわ。私の好きな人は……」
その名に目を見開くと同時に、言われてみれば会話や視線は意味ありげだったので納得する。
年齢差もありなかなか受け入れてもらえないけれど、オリビア様も諦めるつもりはなく成人したからにはぐいぐいアタックしていくと言っていた。
王女様に想いを寄せる人がいるという噂は本当だったようだ。
757
お気に入りに追加
2,347
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
虐げられ令嬢、辺境の色ボケ老人の後妻になるはずが、美貌の辺境伯さまに溺愛されるなんて聞いていません!
葵 すみれ
恋愛
成り上がりの男爵家に生まれた姉妹、ヘスティアとデボラ。
美しく貴族らしい金髪の妹デボラは愛されたが、姉のヘスティアはみっともない赤毛の上に火傷の痕があり、使用人のような扱いを受けていた。
デボラは自己中心的で傲慢な性格であり、ヘスティアに対して嫌味や攻撃を繰り返す。
火傷も、デボラが負わせたものだった。
ある日、父親と元婚約者が、ヘスティアに結婚の話を持ちかける。
辺境伯家の老人が、おぼつかないくせに色ボケで、後妻を探しているのだという。
こうしてヘスティアは本人の意思など関係なく、辺境の老人の慰み者として差し出されることになった。
ところが、出荷先でヘスティアを迎えた若き美貌の辺境伯レイモンドは、後妻など必要ないと言い出す。
そう言われても、ヘスティアにもう帰る場所などない。
泣きつくと、レイモンドの叔母の提案で、侍女として働かせてもらえることになる。
いじめられるのには慣れている。
それでもしっかり働けば追い出されないだろうと、役に立とうと決意するヘスティア。
しかし、辺境伯家の人たちは親切で優しく、ヘスティアを大切にしてくれた。
戸惑うヘスティアに、さらに辺境伯レイモンドまでが、甘い言葉をかけてくる。
信じられない思いながらも、ヘスティアは少しずつレイモンドに惹かれていく。
そして、元家族には、破滅の足音が近づいていた――。
※小説家になろうにも掲載しています
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
聖女候補の転生令嬢(18)は子持ちの未亡人になりました
富士山のぼり
恋愛
聖女候補で第二王子の婚約者であるリーチェは学園卒業間近のある日何者かに階段から突き落とされた。
奇跡的に怪我は無かったものの目覚めた時は事故がきっかけで神聖魔力を失っていた。
その結果もう一人の聖女候補に乗り換えた王子から卒業パーティで婚約破棄を宣告される。
更には父に金で釣った愛人付きのろくでなし貧乏男爵と婚姻させられてしまった。
「なんて悲惨だ事」「聖女と王子妃候補から落ちぶれた男爵夫人に見事に転落なされたわね」
妬んでいた者達から陰で嘲られたリーチェではあるが実は誰にも言えなかった事があった。
神聖魔力と引き換えに「前世の記憶」が蘇っていたのである。
著しくメンタル強化を遂げたリーチェは嫁ぎ先の義理の娘を溺愛しつつ貴族社会を生きていく。
注)主人公のお相手が出て来るまで少々時間が掛かります。ファンタジー要素強めです。終盤に一部暴力的表現が出て来るのでR-15表記を追加します。
※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる