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同じ場所に①
しおりを挟むずっと光に包まれた温かい場所にいた。精霊たちが自由に飛び回り、私の様子を見てはにこっと笑みを浮かべていく。
花々で咲き乱れ、優しい時間だけがそこには流れていた。優しい風が吹き澄んだ空気に息を大きく吸い込む。
夢のような世界から徐々に覚醒する。
うつらうつらとしていたが、次に目を覚ましたときに爽やかで穏やかな安心感のある匂いと温もりに包まれていていた。
ゆっくりと瞼を上げ、予想通りの人を目にして自然と口角が上がる。
「ディートハンス様」
「ミザリア! 気がついたか」
同じように横になって私を見ていたらしいディートハンス様が上半身を起こす。
それから、ああっと今にも泣きそうな顔をして私の顔を覗き、前髪を払われ頬を優しく撫でられた。
その大きな手に無意識に頬をすり寄せる。さらに密着した手にほぉっと息をついた。
ディートハンス様の顔を見てさらに大きな安堵に包まれ、起きてひとりではなかったこと、とても心配してくれていたとわかる表情に泣きたくなった。
――ディートハンス様が目の前にいるっ!
今回の騒動を思うと一歩間違えれば互いに命を落としていた可能性は多いにあった。絶対なんていうものはなくて、その中でこうして生きて同じ場所にいる奇跡のような今に感謝する。
また会えた。温もりを感じることができるほど近くにいること、互いの視界に入っている事実に心が震える。
「……っ」
「このまま目を覚まさないのではないかと気が気でなかった。気分は?」
私が押しつけた頬を撫でうっすらと涙の幕を張った目尻をすくうと、ディートハンス様はつぶさに私を観察した。
「大丈夫です。ここは?」
「寮の私の部屋だ。目を覚まさないだけで身体は問題ないということだったのでここに戻ってきた」
それから私が気を失ってから十日ほど経っていること、ずっと眠り続けていたことを教えてもらう。
精霊の加護が働いているため寝たきりでも大丈夫とのユージーン様の見立てだったが、昼間はハンス医師が状態を確認し、夜はずっとディートハンス様が看てくれていたようだ。
ぽかぽかと温かかったのは、昼夜問わず私を心配してくれていたディートハンス様含め周囲の人たちがいてくれたからなのだろう。
それと、見ていた夢からも精霊たちがずっと守ってくれていたようだ。
――多分、奪われた記憶も全部思い出せた。
内側から溢れる魔力と守られるような聖力を感じ、夢の中で見た存在に目を細める。
ネイサンに毒の小瓶を出されてから少しでもと時間を長引かせたのは、記憶や魔力を取り戻すことも目的であったけれど、毒の効果をせめて弱めることができないかと考えたからだ。
己の力か、もしくはずっと心配してくれている精霊たちに力を借りるか、とにかく少しでも時間を稼ぐ必要があった。
最後まで諦めたくなくて、あの場で自分の持てる限りの最善を尽くしてきた。
十日も眠ることになったのは予想外であったけれど、こうして生きていられること、そして目の前の人を悲しませなくてすんだことが何より嬉しかった。
「心配をおかけしました。助けていただきありがとうございます」
迷惑をかけたと謝ることはしない。ただただ、向けられる気持ちと行動に感謝していることを視線で訴えた。
本当は頭を下げたかったけれど横になったままであるので、精一杯気持ちを込める。
「…………守ってやれなくてすまなかった」
静かに交わる視線。
沈黙したのち、ディートハンス様の絞り出すような悲痛な声に胸が苦しくなる。
絶対、気に病んでいると思っていた。だけど、己の役目を全うした上で駆けつけて来てくれた。
約束通り、誓い通り、あの状況から救ってくれた。ディートハンス様たちが国を守ってくれたから帰る場所があって、今こうしていられる。
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