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◇記憶と真実①sideアーノルド
しおりを挟む「私はどうすればいいですか?」
その声はわずかに震えていたが、面を上げた表情は決意に満ち凜としたものだった。
「驚いたな」
揺らぐことのないミザリアの双眸をまっすぐに見据えながら、アーノルドは感心した。
正直な感想が口から漏れる。
ミザリアは彼女が黒狼寮に来てからは、ブレイクリー伯爵の動向も含め監視対象であり庇護すべき者であった。
家政婦業をこなし、思いのほかここでの寮生活に順応しても。
ディートハンス総長の魔力に適応するという驚くべきことを成し遂げ、さらに距離を縮め今までにない穏やかさをもたらすという奇跡のような存在となっても。
聖力で呪いを解放という偉業をなしても。
それらに感謝することはあっても、あくまでか弱い女性、しかも虐げられてきたため気遣いが多く必要な者。
アーノルドたちにとってミザリアは守るべき対象者だった。
先ほども伯爵が探していると聞いて、ミザリアは尋常ではない反応を示していた。
その反応にミザリア自身も戸惑っているように見えた。植え付けられたトラウマは本人が意識しているより深刻なのだとわかるそれだった。
むしろ、一度逃れたという安堵感があるからこそ、さらに怖いものになったのかもしれない。
話さなければよかったかと一瞬後悔したけれど、たった数刻の間にいい表情をするようになったミザリアに驚かされる。
それこそ、今回のことでミザリアの処遇をどのようにするか幾度となく話し合いをしてきた。
その中でいくつか候補があったが、最善だと思われるものはミザリアの身が何より心労的に危険すぎるとディートハンスが強く反対したため、その選択肢は除外した。
「ミザリアに無理をしてほしくない」
ディートハンスの感情をそぎ落としたような声が落ちる。
ミザリアの発言に一瞬眉を跳ね上げ、国を守るべき立場としてやるべきこと、ミザリアを大事に思う気持ちで揺らいだように見えたが、先ほどの揺れは錯覚だったのではと思わせるほど双眸から感情が排されていた。
「もちろん。出しゃばって迷惑をかけるつもりはありません。ただ、私が役に立てることがあるのならやるという意思を伝えたかったまでで」
そこでミザリアは言葉を切った。
迷惑をかけたくない。役に立ちたい。それらはミザリアの言動から非常に気にしているものだということはわかる。
先ほどのトラウマのように、そうやって生きてきたミザリアに植え付けられたもの。
前ほど顕著ではなくなったけれど、身についた習慣みたいに自然とそう考えてしまう彼女の境遇を思わずにはいられない。
ひゅうと吹いた北風が梢を揺らす音が聞こえる。
暑くなる季節に来た彼女は気づけば半年。季節は変わり、本格的な冬が始まろうとしている。
騎士団にとってこれから厳しい時期になる。アーノルドは団長として渦巻く感情を切り捨てるように、ゆっくりと瞼を伏せた。
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