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騎士団総長①

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 数日かけて王都にある騎士団寮に到着した。
 私が住んでいるグリテニア王国は大陸で五本の指に入る大きな国だ。国をぐるりと囲む山脈から溢れ出る魔物を討伐してきた一族が王家の成り立ちとされている。

 王家を中心とした人々が狼を連れ一丸となって魔物と戦ってきたため仲間意識も強く、周囲の侵攻を試みる敵国も鍛えられた隊で蹴散らし領地を削ることなく今の形になったとされていた。
 王国騎士団の紋章が狼なのはそれゆえである。

 現王は健在で次期国王となる王太子殿下も非常に優秀な方だと言われている。
 弟殿下は病弱で伏せっておられて表舞台からは遠ざかっているが兄弟仲は悪くないらしい。成人された姫君もおられるが、なんでも想いを寄せる相手がいるとかでまだご結婚されていない。
 外交が盛んになった今では、騎士団のように魔法と力に優れた者が魔物からも周囲の国の脅威からも守ってくれている。

 そんな国の要となる騎士たちの王都にある騎士団寮は五つの寮に分けられている。
 門をくぐると訓練場などがある大きな敷地が見え、その奥に伯爵家の屋敷よりも大きく立派な四つの建物があり、さらにその奥にフェリクス様が住んでいる建物があった。

 他の建物より小さいけれど造りがしっかりしたその黒い外構の寮に、フェリクス様と総長、他に八人が住んでいると説明を受ける。道中一緒だったアーロン様とザッカリー様は入って二つ目の寮に住んでいるらしい。
 騎士服が黒をベースとしていることそして狼の紋章から、総長も住まうこの寮は黒狼寮と呼ばれ、この寮だけは住み込みで働いている人はおらず合格すれば騎士以外では私だけになるらしい。

「ようこそ。騎士団寮へ」

 必要最低限の装飾の建物は、広々として無駄を省いたような内装ではあるものの赤と金の文様のカーペットなど貴族の屋敷と変わらない。
 何人収容ができるのか想像もつかない大きなホールを前に、私の緊張はマックスになった。

 現在は皆出払っていると、フェリクス様は私の荷物を持ちまず私の部屋となる場所へと案内してくれた。それから配置とともに主な業務を教えてくれる。
 洗濯物は回収し専門の担当者に渡すだけでよく、食料も必要なものを言いつけたら届けてくれるらしい。

 私の仕事は基本そういったものの回収や目につくところの掃除、そして食事の準備をするだけらしい。
 食事も他の寮と同じく煮込み料理やサラダなど出来上がったものや料理人によって下ごしらえをしたものが定期的に届き、それらをそれぞれの隊員の勤務や好みに合わせて出す。

 一から作るものばかりではないことはとても助かるが、勤務は不規則であるし、隊によって動きも違うし個人の好みもあるのでそこを合わせるのが大変そうである。
 あとは状況を見てできる仕事をしていく。つまり、騎士様が居心地がよいと思ってもらえる動きをするのが私の仕事だ。

 実際、洗濯ものを洗ったり買い出しをしたりとなると、時間があってもひとりで回せるか不安に思っていたのでこれはありがたい。
 食事や洗濯など気を遣わなければならない大部分の形ができているのは、騎士のペースを崩す心配もなさそうであるし助かる。

「最初から気負おうとせずに、わからないことがあればその都度聞いてくれたら。俺たちも完璧な仕事を求めているわけではないから」
「わかりました」

 少しでも寮で安らげればいい、そういうことなのだろう。
 任務で疲れているにもかかわらず、私に気を配ってくれるフェリクス様。総長の件をクリアすれば、彼のためにも居心地のよい環境を作れるようにしたいと思った。
 伯爵家は生きるために能動的であったけれど、今は自発的に頑張りたい気持ちでいっぱいだ。

 説明を受けながら質問をしたり仕事の流れを確認していると日が沈みだし、ぱっと明かりが自動的に灯るとそこで入り口あたりが騒がしくなった。
 それと同時にがらりと寮の空気が変わるのがわかる。姿が見えないのに建物全体の空気が濃くなったのを感じた。
 思わずフェリクス様を見ると、彼はゆっくりと頷いた。

「第一騎士団の彼らが帰ってきた。総長もいるようだ。彼らにはミザリアがいることの連絡を先に入れてあるから心配しないで」
「はい」

 再び緊張してきた。
 認めてもらえるだろうか。フェリクス様の期待に応えられるだろうか。何度も気負わないようにと彼に声をかけられたけれど、やはり身体に力が入る。

 ふぅっと深く深呼吸をし、力を抜くことを試みる。緊張で表情が硬くなっているのが自分でもわかる。
 気配のほうに視線を向け緊張と戦っていると、そう時間もかからず騎士服を着た四人の男性が現れた。

 黒い騎士服に襟元などは白色の第一騎士団の騎士が三人、そして彼らとはデザインも変わった騎士服に左肩に金の紐で結ばれた白のペリース、さらに全十五騎士団の色の入った装飾の騎士服を着た男性がひとり。
 第一騎士団の三人を従えるように、男らしくそれでいて不思議な魅力を持った長身の美形が立っていた。

 圧巻だった。
 ほうっ、と知らずに感嘆の息が漏れる。

 ――次元が違うってこういうことなのね。

 道中の話だけ聞いて膨らんでいた総長に抱いた感想と想像、フェリクス様が慕っている空気から感じていたイメージとともに急速に一つにまとまる。
 とにかく、会えばわかるというのがわかった。この美貌とともに放つ空気感は独特すぎる。

 兄であるベンジャミンも美形と言われモテていたようだけど、伯爵領を出てからフェリクス様と出会い、兄を圧倒的に上回る体格からして素晴らしいそれぞれタイプの違った美形を次々と目にしてあっさりと上塗りされた美形基準がまた跳ね上がる。
 その集大成とも言える美貌と存在感。

 艶やかな黒髪に野性味の強い切れ長のアンバーアイ。ウルフアイとも呼ばれ中心の黒の周りに黄色が強い双眸は見る者を畏敬の念を抱かせる。
 多くの者は彼を見て、教会のステンドグラスに描かれているこの国で神格化したフェンリルのような孤高さと美しさにどうしても焦がれてしまうのだろう。

 その双眸がゆっくりと私を映すと、わずかに細められた。
 それから何事もなかったかのように視線を外し、フェリクス様に話しかける。

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