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第四章(下)
第0話
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その夜は、月の出ない、とても暗い夜だった。街灯などの夜に道を照らす物は、王都の大通りにしか設置されていないため、男の住んでいる所では一歩外に出れば遠くを確認する事が難しくなるだろう。
肌や髪の色素の薄い男は、自室にて、絵の具の付いた服を着たままベッドにうずくまっている。
そしてロウソクの灯を頼りに、壁にかけられた、一枚の少女の絵を見ていた。
「お前の姉さん、遅いよなあ?何があったと思う?」
「別に、友達の家にでも泊まっているんだろ。お前と違って僕と姉さんは生まれた時から一緒にいるんだ。こんな事は今までに何度かあった」
色素の薄い男は、ぼそぼそと、まるで独り言のように言葉を連ねる。
「んんーっ... 確かに、お前から見たらそうかもしれないな。お前の記憶にもそれが刻まれている」
「... 僕の記憶も見れるんだったな」
「ああ、そうだ。だから分かるんだ、お前は俺と同じ、社会のはみ出し者であることをなあ... 夢ばっか追って、いつまでも双子の姉さんに迷惑をかけているお前の気持ちが、よおく分かるんだ」
「僕はお前とは違う」
言うと、色素の薄い男は畳んだ膝を伸ばし、ベッドに腰掛ける。そして自分の主張を行動で示すよう、テーブルの上の筆を握り、絵の具につけ、横のキャンバスに筆先を向ける。
「んんーっ!確かにそうだなあ、お前には絵があるかもしれない。だがよお、俺にはお前の気持ちも筒抜けなんだぜ」
その言葉に、筆先に力が入り、毛先が少し乱れてしまう。
「お前は今も、俺と出会った時も、確実に、そしてとても焦っているよなあ?」
「だからなんだって言うんだよ」
「んー... いい加減認めちまえよ。こんな事やってても無駄だって分かってるんだろ?俺にはお前の気持ちが分かるんだぜ、絵なんてやめて、衝動のままに暴れちまおうぜ?」
「... うるさいんだよ」
男は指先が真っ白になるほどに強く筆を握り、歯を強く噛みしめる。
「うるさいんだよ!お前に操られてそんな事をするくらいだったら、その前に僕は死んでやる。そうなったらお前も困るだろ」
「んー?馬鹿かお前。別に俺たちは赤い糸で結ばれた仲じゃないんだよなあ。俺に都合が良いから、俺が利用している立場なんだ。だからさっきのは質問じゃねえ、命令なんだよ」
深く息を吸い、吐き出すと、男は再びキャンバスに筆を向ける。
「お前に指図される言われは無い。どんな事があっても僕はお前の良いようには動かない」
「例えお前の姉さんに何かあっても?」
「なに?」
「お前の姉さんだよ。前に、お前の姉さんの行動もある程度分かるって言ったよなあ?」
男は手を止め、眉を潜めて何かを考える素振りをする。
「姉さんに... 何かあったのか?どうせ嘘でも言ってるんだろ?」
「んんーっ!俺を疑うとは失礼だな。本当に嘘だと思うんなら、お前の言う姉さんの友達の家にでも行ってみろよ。どこにもお前の姉さんの姿は無えからよ... 」
男は言葉の途中で、見切りをつけたように三度筆をキャンバスに向ける。
「話を最後まで聞けよなあ。んーーまあ、そんなに焦る事は無いか。俺はただ単に、俺をお前と一緒にやつらの元まで連れて行って欲しいだけなんだからよお」
「それ以上喋るな。気が散る」
その言葉を最後に男は口をしっかりと閉じ、一人部屋の中、作業に集中する。
肌や髪の色素の薄い男は、自室にて、絵の具の付いた服を着たままベッドにうずくまっている。
そしてロウソクの灯を頼りに、壁にかけられた、一枚の少女の絵を見ていた。
「お前の姉さん、遅いよなあ?何があったと思う?」
「別に、友達の家にでも泊まっているんだろ。お前と違って僕と姉さんは生まれた時から一緒にいるんだ。こんな事は今までに何度かあった」
色素の薄い男は、ぼそぼそと、まるで独り言のように言葉を連ねる。
「んんーっ... 確かに、お前から見たらそうかもしれないな。お前の記憶にもそれが刻まれている」
「... 僕の記憶も見れるんだったな」
「ああ、そうだ。だから分かるんだ、お前は俺と同じ、社会のはみ出し者であることをなあ... 夢ばっか追って、いつまでも双子の姉さんに迷惑をかけているお前の気持ちが、よおく分かるんだ」
「僕はお前とは違う」
言うと、色素の薄い男は畳んだ膝を伸ばし、ベッドに腰掛ける。そして自分の主張を行動で示すよう、テーブルの上の筆を握り、絵の具につけ、横のキャンバスに筆先を向ける。
「んんーっ!確かにそうだなあ、お前には絵があるかもしれない。だがよお、俺にはお前の気持ちも筒抜けなんだぜ」
その言葉に、筆先に力が入り、毛先が少し乱れてしまう。
「お前は今も、俺と出会った時も、確実に、そしてとても焦っているよなあ?」
「だからなんだって言うんだよ」
「んー... いい加減認めちまえよ。こんな事やってても無駄だって分かってるんだろ?俺にはお前の気持ちが分かるんだぜ、絵なんてやめて、衝動のままに暴れちまおうぜ?」
「... うるさいんだよ」
男は指先が真っ白になるほどに強く筆を握り、歯を強く噛みしめる。
「うるさいんだよ!お前に操られてそんな事をするくらいだったら、その前に僕は死んでやる。そうなったらお前も困るだろ」
「んー?馬鹿かお前。別に俺たちは赤い糸で結ばれた仲じゃないんだよなあ。俺に都合が良いから、俺が利用している立場なんだ。だからさっきのは質問じゃねえ、命令なんだよ」
深く息を吸い、吐き出すと、男は再びキャンバスに筆を向ける。
「お前に指図される言われは無い。どんな事があっても僕はお前の良いようには動かない」
「例えお前の姉さんに何かあっても?」
「なに?」
「お前の姉さんだよ。前に、お前の姉さんの行動もある程度分かるって言ったよなあ?」
男は手を止め、眉を潜めて何かを考える素振りをする。
「姉さんに... 何かあったのか?どうせ嘘でも言ってるんだろ?」
「んんーっ!俺を疑うとは失礼だな。本当に嘘だと思うんなら、お前の言う姉さんの友達の家にでも行ってみろよ。どこにもお前の姉さんの姿は無えからよ... 」
男は言葉の途中で、見切りをつけたように三度筆をキャンバスに向ける。
「話を最後まで聞けよなあ。んーーまあ、そんなに焦る事は無いか。俺はただ単に、俺をお前と一緒にやつらの元まで連れて行って欲しいだけなんだからよお」
「それ以上喋るな。気が散る」
その言葉を最後に男は口をしっかりと閉じ、一人部屋の中、作業に集中する。
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