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第四章(上)
新聞記者を調べたい!
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前回のあらすじ、街での追いかけっこ。
その三人の姿は、何も知らない人から見れば少々奇妙に映るだろう。
大通りに面する路地にて、赤髪の少女をお姫様だっこする大剣持ちの少女。そしてその二人を険しい無表情で見ているワンピース姿の少女。
「さて、とりあえずてめえの名前を聞こうか」
「い、いやそれは良いんですけど先に地面におろしてくれませんかね?」
「駄目だ、そう言って逃げるつもりだろ?リリーが良く使う手口だ。お前はそんなに重くないから気にすんなって!」
赤髪の少女が懇願するもあっけなく断られ、冷や汗を額に浮かべることになる。彼女に向けられる視線が一層鋭くなった事に気付いたからだ。
(い、いや、タイラン様の従者が怒ってるからおろしてくださいって言ってるんですよ!あなた鈍感ですか!)
「わ、分かりました言います!言いますから下ろしてください!私の名前はテラー!会社の名前は知ってるでしょう!早くおろしてください!」
「まあ落ち着けって。新聞では報道されねえけど、一応俺たちの能力は知ってるんだろう?俺の体力はそう簡単には尽きねえよ」
(違う!そうじゃない!)
「メイ、こいつの言ってる事は本当か?」
「... はい、声や目線から、嘘をついているようには見受けられません」
「じゃ、じゃあ... 」
「いやまだだ」
彼女はまだおりられない。そして当然のように刺さる視線は強くなる。
「一応さっきメモってた内容を調べさせてもらうぜ。そのウエストポーチから出しな!」
「は、はい... 」
ひきつった顔でメモを手渡すと... 大剣持ちの少女は、そのメモをそのままワンピース姿の少女に手渡す。
「メイ、変な事が書かれてないか見てくれ」
「... かしこまりました」
「もうおろしてくださいよ... 」
**********
会場の雰囲気は上演前の映画館に似ていた。前の世界では芝居など観た事が無かったこともあり、純粋に何が始まるのか楽しみだ。
だがそれにしても...
「あんまり気にするような事じゃないと思うんだが... 席がガラガラだな」
「しょ、初回と二回目の公演では席が埋まっていたようですが、回数を重ねるに連れて観客が減っていったようです。」
ま、まあ... どれくらいの人が芝居を見るのかは分からないけれど、一度観た物はもう観ないだろうし...
「まあ私達の旅の話に少々脚色したもののようですし、面白くない事はないと思いますよ」
「そ、そうですよね」
… あれ?そういえば、この芝居は勇者を題材にしたものだが、俺は大した活躍をしていないはず... ここの所はどうなっているんだ?
ブゥ―――――…
「ベルが鳴りましたね。始まりますよ」
ベルが鳴り止むと共に舞台を覆う赤い膜が上がり、豪華なセットを露わにさせる。
「あの二人ってリリーと俺か?リリー役の人、あれ子供なんじゃないかな?」
舞台は王室で、俺が召喚された日のようだ。勇者役の人は俺よりもかなりイケメンだが、リリー役の人は忠実にリリーの背丈を再現していた。
「いぃぃぃぃいで... いでででででっ... 」
て、手首が握られ... !お、折れる...
「ほら、笑えるシーンですよ」
手首が解放された頃、俺がリリーのナイフにビビり散らかし、失禁した様子が再現されていた。
ここでショック死して、死んだペナルティとして俺の俺がヒートアップ出来ない状態にされるから、全く良い思い出ではないな。
その後は、俺がリリーにしごかれている様子や、魔物と戦っている様子、西の町の男たち失踪している様子などが演じられ、俺とリリーが最初の四天王と相対しているシーンになる。
そして始まる初の四天王戦。
芝居を観ていて思ったのだが、戦闘シーンのクオリティがめちゃくちゃ高い。ここの世界の住人の身体能力が異様に高いからか、動きがリアルでとても演技とは思えなかった。
だがそんな戦闘シーンはなぜか徐々に怪しくなっていき... いや、戦闘シーンや演技は目を見張る物だったが、一つのおかしな点が異様に目立つ。
「なんか俺... 強すぎない?」
「... あれでも一般的な人と比べれば相当弱いですよ。両腕を骨折した子供と言われれば納得します」
この世界の住人... 異常すぎないか?
逆にここの世界の住人が地球に転生すれば、楽に無双が出来そうだ。
続く二人目の四天王戦、三人目の四天王戦と、現実とは異なり、なぜか俺がとどめを刺すといった形で敵を倒していき、舞台の幕は閉じられる。
そしてなぜか能力について語られる事は無く、ちょっとイケメンになった俺がちょっと頭を使って四天王を倒していくだけだったな...
「はあ、なんとなく人気が出なかった理由が分かりましたよ。私たちの能力が公開されていないので、戦闘シーンが淡泊なものになりすぎたんですよ。これだったら現実の出来事と比較しなくて良い、他の芝居を観に行くでしょうね」
「... まあそれでも、演技とか戦闘シーンは上手かったし、楽しかったよ。スズも誘ってくれてありが... 」
予想通りというか何というか... 先ほどからうんともすんとも言わないスズの方を見ると... 両手指を祈る時のように組み合わせ、目を瞑って余韻を楽しんでいるのが伺える。
「物語こそ単調で、嘘に飾られた、良いものではありませんでしたが、勇者様の別の、格好良い姿を見る事が出来てとても満足です」
「え?うん... それは良かった」
「まあ、へっぽこより強くはありましたからね」
そ、そうだよな... いつも俺が活躍することは無いもんな... ちょっと... というか結構複雑な気分...
ーーーーーーーーーーーー
記者ちゃん描いてみた
その三人の姿は、何も知らない人から見れば少々奇妙に映るだろう。
大通りに面する路地にて、赤髪の少女をお姫様だっこする大剣持ちの少女。そしてその二人を険しい無表情で見ているワンピース姿の少女。
「さて、とりあえずてめえの名前を聞こうか」
「い、いやそれは良いんですけど先に地面におろしてくれませんかね?」
「駄目だ、そう言って逃げるつもりだろ?リリーが良く使う手口だ。お前はそんなに重くないから気にすんなって!」
赤髪の少女が懇願するもあっけなく断られ、冷や汗を額に浮かべることになる。彼女に向けられる視線が一層鋭くなった事に気付いたからだ。
(い、いや、タイラン様の従者が怒ってるからおろしてくださいって言ってるんですよ!あなた鈍感ですか!)
「わ、分かりました言います!言いますから下ろしてください!私の名前はテラー!会社の名前は知ってるでしょう!早くおろしてください!」
「まあ落ち着けって。新聞では報道されねえけど、一応俺たちの能力は知ってるんだろう?俺の体力はそう簡単には尽きねえよ」
(違う!そうじゃない!)
「メイ、こいつの言ってる事は本当か?」
「... はい、声や目線から、嘘をついているようには見受けられません」
「じゃ、じゃあ... 」
「いやまだだ」
彼女はまだおりられない。そして当然のように刺さる視線は強くなる。
「一応さっきメモってた内容を調べさせてもらうぜ。そのウエストポーチから出しな!」
「は、はい... 」
ひきつった顔でメモを手渡すと... 大剣持ちの少女は、そのメモをそのままワンピース姿の少女に手渡す。
「メイ、変な事が書かれてないか見てくれ」
「... かしこまりました」
「もうおろしてくださいよ... 」
**********
会場の雰囲気は上演前の映画館に似ていた。前の世界では芝居など観た事が無かったこともあり、純粋に何が始まるのか楽しみだ。
だがそれにしても...
「あんまり気にするような事じゃないと思うんだが... 席がガラガラだな」
「しょ、初回と二回目の公演では席が埋まっていたようですが、回数を重ねるに連れて観客が減っていったようです。」
ま、まあ... どれくらいの人が芝居を見るのかは分からないけれど、一度観た物はもう観ないだろうし...
「まあ私達の旅の話に少々脚色したもののようですし、面白くない事はないと思いますよ」
「そ、そうですよね」
… あれ?そういえば、この芝居は勇者を題材にしたものだが、俺は大した活躍をしていないはず... ここの所はどうなっているんだ?
ブゥ―――――…
「ベルが鳴りましたね。始まりますよ」
ベルが鳴り止むと共に舞台を覆う赤い膜が上がり、豪華なセットを露わにさせる。
「あの二人ってリリーと俺か?リリー役の人、あれ子供なんじゃないかな?」
舞台は王室で、俺が召喚された日のようだ。勇者役の人は俺よりもかなりイケメンだが、リリー役の人は忠実にリリーの背丈を再現していた。
「いぃぃぃぃいで... いでででででっ... 」
て、手首が握られ... !お、折れる...
「ほら、笑えるシーンですよ」
手首が解放された頃、俺がリリーのナイフにビビり散らかし、失禁した様子が再現されていた。
ここでショック死して、死んだペナルティとして俺の俺がヒートアップ出来ない状態にされるから、全く良い思い出ではないな。
その後は、俺がリリーにしごかれている様子や、魔物と戦っている様子、西の町の男たち失踪している様子などが演じられ、俺とリリーが最初の四天王と相対しているシーンになる。
そして始まる初の四天王戦。
芝居を観ていて思ったのだが、戦闘シーンのクオリティがめちゃくちゃ高い。ここの世界の住人の身体能力が異様に高いからか、動きがリアルでとても演技とは思えなかった。
だがそんな戦闘シーンはなぜか徐々に怪しくなっていき... いや、戦闘シーンや演技は目を見張る物だったが、一つのおかしな点が異様に目立つ。
「なんか俺... 強すぎない?」
「... あれでも一般的な人と比べれば相当弱いですよ。両腕を骨折した子供と言われれば納得します」
この世界の住人... 異常すぎないか?
逆にここの世界の住人が地球に転生すれば、楽に無双が出来そうだ。
続く二人目の四天王戦、三人目の四天王戦と、現実とは異なり、なぜか俺がとどめを刺すといった形で敵を倒していき、舞台の幕は閉じられる。
そしてなぜか能力について語られる事は無く、ちょっとイケメンになった俺がちょっと頭を使って四天王を倒していくだけだったな...
「はあ、なんとなく人気が出なかった理由が分かりましたよ。私たちの能力が公開されていないので、戦闘シーンが淡泊なものになりすぎたんですよ。これだったら現実の出来事と比較しなくて良い、他の芝居を観に行くでしょうね」
「... まあそれでも、演技とか戦闘シーンは上手かったし、楽しかったよ。スズも誘ってくれてありが... 」
予想通りというか何というか... 先ほどからうんともすんとも言わないスズの方を見ると... 両手指を祈る時のように組み合わせ、目を瞑って余韻を楽しんでいるのが伺える。
「物語こそ単調で、嘘に飾られた、良いものではありませんでしたが、勇者様の別の、格好良い姿を見る事が出来てとても満足です」
「え?うん... それは良かった」
「まあ、へっぽこより強くはありましたからね」
そ、そうだよな... いつも俺が活躍することは無いもんな... ちょっと... というか結構複雑な気分...
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記者ちゃん描いてみた
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