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第四章(上)
芝居を観に行こう!
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前回のあらすじ、カズ王子の部屋を掃除する。
リリーはやたらとピリピリしながら俺の隣を歩いていた。下くちびるを噛み、両手を力強く握り、俺を置いていくかのごとく素早い歩み... というか駆け足で。
「な、なあ何を怒って... 」
ひっ... 睨まれた...
と思ったらなぜか顔がいつもの鋭い目に戻り...
「へっぽこあなた... 強くなりたいのですか?」
「え?そりゃやっぱり、足は引っ張りたくないし... 良かったらもう一度戦いの訓練を... 」
そう言うとなぜかリリーは歩みを止め、呆れたような顔で俺を見る。
「ですが... いや、今は良いです。それよりも、目の前の事に集中しましょう」
「め、目の前の事?」
再びリリーは歩き出し、いいからついてこいと俺に体で伝える。
**********
「さあ参りましょう勇者様!」
「え?」
目の前の青がかった黒髪の少女は杖を持つと、目を光らせて詰め寄ってくる。
彼女はこの国のお姫様で、名前はスズ。反則級に素早く強い拳や蹴りを使い、武器を必要としない戦闘スタイルで戦う。
能力は、人間などの魂の器を操り、治療したり改造することが出来るものだ。魂の近くの素肌を素手で触れれば発動するので、能力にも戦闘にも、実は杖は必要無い。
「じ、実は... リリーさんと勇者様と一緒に、お芝居を観に行きたいなと思いまして... 」
スズは、キラキラとした目でこちらを見据えてくる。
このお姫様、物語の事になると我を忘れ、それを全力で楽しもうとしてくる。この魔王討伐も能力だと捉えており、自分は回復役だからと、意味もないのに杖を持ち歩いている。
ちなみに粉砕した骨も、全身麻痺も、更には四肢の欠損も治せるこの能力は、魂が入っている器にしか効かないようで... 魂を持っていない俺には効きませんとな。
「誘ってくれてありがとう。じゃあせっかくだし、一緒に... 」
… な、なんだ?
何かを感じるぞ... 何か決定的な、致命的な違和感が...
「そうですか、じゃあ三人で一緒に行きましょうか」
リリーの機嫌が悪くなってる?表情や声は変わらないけれど、明らかになにかに対して怒っている...
異世界初日からリリーの事を怒らせていたから、なんとなく感じ取れる... この表情はそう、例えるのなら『せっかくの久しぶりのスズとの外出だっていうのに、へっぽこがついてきては台無しではないですか』とでも言っているような...
「ああ!でも俺やっぱり... 」
に、睨まれた!?さっきより更に機嫌が悪くなっているような...
この表情はそう、例えるのなら『つまらない事でスズの誘いを断らないでください。細かいことは気にせずにとっとと行きますよ』とでも言っているような...
「ど、どうされましたか勇者様?」
「いやなんでもない!楽しみだなあと思って!」
や、やばい... ちょっと不審な目で見られてる...
「えっとそう、タイランとかは誘わなくて良いのかなって」
タイランは大剣使いで、リリーから脳筋と揶揄されるほど、単純な性格で体力が多い。能力は、直肌に触れた物質をエネルギーに変換させ、それを体内に蓄積しておく事のようで... 一日中荷台を引っ張ったり、ボタンに運動エネルギーを与え、ものすごい速さで飛ばしたりすることが出来る。そして言動や見た目とは相反して、少女趣味である。
「タイランさんはお芝居の途中で寝てしまいますから。それに今日は、メイさんと一緒に街に遊びに行ったそうです」
メイはタイランの従者なのだが... タイランに抱いている愛情が凄まじく、俺が命の危機を感じるほどだ。能力こそ無いが、四天王討伐に協力してくれている。
「それより勇者様、急いで向かわないと上演の時間に間に合わなくなってしまいます!今日のお話は勇者様の事についてなので、この世界の知識に疎い勇者様で楽しめるものだと思います!」
お、俺の話?能力が使えず、ほとんど四天王戦で活躍していない俺の話だと... 嫌な予感しかしない...
**********
というわけで俺たち三人は、芝居を観に行くため街を歩いていた。
「勇者の物語って... 多分これまでの四天王戦の話だよな?」
「は、はい。告知ではそう書かれていましたね」
「でも勇者パーティーの動向って誰が見てるんだ?こうやって街を歩いていても、街の人に声をかけられる事もないから、別に俺の顔が有名ってわけでもないし... 」
二人目の四天王、パルスと戦った時は街中で戦ったから目撃情報があるのは分かる。だが一人目と三人目の四天王の時は、森の中だったから誰かに見られるはずは無いだろう...
「... へっぽこ、これを読んでください」
「え?あ、ありがとう」
質問に答えるよう、リリーから手渡されたのは、どこから取り出したのか折りたたまれた大き目の紙の束だ。
開いて中を確認してみると、それは新聞のようで、見覚えのあるレイアウトをしている。見出しを見てみると...
『二人目の四天王は人間!?勇者が相対するも、一切活躍せず!?』
「んなんじゃっこりゃあああっ!!!」
見出しにはいきなり堂々と事実が書かれてあり、思わず新聞を両端から真っ二つに引き裂いてしまう。新聞と新聞の間には、不審めいた顔を浮かべ、こちらを見ているリリーが映り...
「前にも話しましたがそれは新聞というものです。情報を世間に広めるために... 」
「いやそれは分かってるが... !なんだってこういう見出しにするんだよ... 普通にタイランが活躍した事実を書けば良いのに... 」
「事実なんですから仕方ないですよ。まあ本文でも、タイランの情けない様子の描写が目立ちますし、少しばかりの悪意を感じるのは理解できます。一人目の四天王戦の新聞も読んだ事があるでしょう?つまりそういう事です」
なるほど... どうやってか俺たちの事をつけている記者がいたのか。新聞に書いてある内容も、メイの話と一致するな。
「え!?じゃあもしかして、アンと戦ってる時も... いたのか!?この記者が... 」
「はい、ものすごく遠くの方から誰かが見ていました。タイランもなんとなく勘で分かっていたようですね。遠すぎて顔は見えませんでしたが」
「そ、そうなんですね... いらっしゃったのは知っていましたが、私には感じ取れませんでした... 」
ス、スズにも気付かれないほどの隠密能力... 純粋にヤバい人なのでは?
リリーはやたらとピリピリしながら俺の隣を歩いていた。下くちびるを噛み、両手を力強く握り、俺を置いていくかのごとく素早い歩み... というか駆け足で。
「な、なあ何を怒って... 」
ひっ... 睨まれた...
と思ったらなぜか顔がいつもの鋭い目に戻り...
「へっぽこあなた... 強くなりたいのですか?」
「え?そりゃやっぱり、足は引っ張りたくないし... 良かったらもう一度戦いの訓練を... 」
そう言うとなぜかリリーは歩みを止め、呆れたような顔で俺を見る。
「ですが... いや、今は良いです。それよりも、目の前の事に集中しましょう」
「め、目の前の事?」
再びリリーは歩き出し、いいからついてこいと俺に体で伝える。
**********
「さあ参りましょう勇者様!」
「え?」
目の前の青がかった黒髪の少女は杖を持つと、目を光らせて詰め寄ってくる。
彼女はこの国のお姫様で、名前はスズ。反則級に素早く強い拳や蹴りを使い、武器を必要としない戦闘スタイルで戦う。
能力は、人間などの魂の器を操り、治療したり改造することが出来るものだ。魂の近くの素肌を素手で触れれば発動するので、能力にも戦闘にも、実は杖は必要無い。
「じ、実は... リリーさんと勇者様と一緒に、お芝居を観に行きたいなと思いまして... 」
スズは、キラキラとした目でこちらを見据えてくる。
このお姫様、物語の事になると我を忘れ、それを全力で楽しもうとしてくる。この魔王討伐も能力だと捉えており、自分は回復役だからと、意味もないのに杖を持ち歩いている。
ちなみに粉砕した骨も、全身麻痺も、更には四肢の欠損も治せるこの能力は、魂が入っている器にしか効かないようで... 魂を持っていない俺には効きませんとな。
「誘ってくれてありがとう。じゃあせっかくだし、一緒に... 」
… な、なんだ?
何かを感じるぞ... 何か決定的な、致命的な違和感が...
「そうですか、じゃあ三人で一緒に行きましょうか」
リリーの機嫌が悪くなってる?表情や声は変わらないけれど、明らかになにかに対して怒っている...
異世界初日からリリーの事を怒らせていたから、なんとなく感じ取れる... この表情はそう、例えるのなら『せっかくの久しぶりのスズとの外出だっていうのに、へっぽこがついてきては台無しではないですか』とでも言っているような...
「ああ!でも俺やっぱり... 」
に、睨まれた!?さっきより更に機嫌が悪くなっているような...
この表情はそう、例えるのなら『つまらない事でスズの誘いを断らないでください。細かいことは気にせずにとっとと行きますよ』とでも言っているような...
「ど、どうされましたか勇者様?」
「いやなんでもない!楽しみだなあと思って!」
や、やばい... ちょっと不審な目で見られてる...
「えっとそう、タイランとかは誘わなくて良いのかなって」
タイランは大剣使いで、リリーから脳筋と揶揄されるほど、単純な性格で体力が多い。能力は、直肌に触れた物質をエネルギーに変換させ、それを体内に蓄積しておく事のようで... 一日中荷台を引っ張ったり、ボタンに運動エネルギーを与え、ものすごい速さで飛ばしたりすることが出来る。そして言動や見た目とは相反して、少女趣味である。
「タイランさんはお芝居の途中で寝てしまいますから。それに今日は、メイさんと一緒に街に遊びに行ったそうです」
メイはタイランの従者なのだが... タイランに抱いている愛情が凄まじく、俺が命の危機を感じるほどだ。能力こそ無いが、四天王討伐に協力してくれている。
「それより勇者様、急いで向かわないと上演の時間に間に合わなくなってしまいます!今日のお話は勇者様の事についてなので、この世界の知識に疎い勇者様で楽しめるものだと思います!」
お、俺の話?能力が使えず、ほとんど四天王戦で活躍していない俺の話だと... 嫌な予感しかしない...
**********
というわけで俺たち三人は、芝居を観に行くため街を歩いていた。
「勇者の物語って... 多分これまでの四天王戦の話だよな?」
「は、はい。告知ではそう書かれていましたね」
「でも勇者パーティーの動向って誰が見てるんだ?こうやって街を歩いていても、街の人に声をかけられる事もないから、別に俺の顔が有名ってわけでもないし... 」
二人目の四天王、パルスと戦った時は街中で戦ったから目撃情報があるのは分かる。だが一人目と三人目の四天王の時は、森の中だったから誰かに見られるはずは無いだろう...
「... へっぽこ、これを読んでください」
「え?あ、ありがとう」
質問に答えるよう、リリーから手渡されたのは、どこから取り出したのか折りたたまれた大き目の紙の束だ。
開いて中を確認してみると、それは新聞のようで、見覚えのあるレイアウトをしている。見出しを見てみると...
『二人目の四天王は人間!?勇者が相対するも、一切活躍せず!?』
「んなんじゃっこりゃあああっ!!!」
見出しにはいきなり堂々と事実が書かれてあり、思わず新聞を両端から真っ二つに引き裂いてしまう。新聞と新聞の間には、不審めいた顔を浮かべ、こちらを見ているリリーが映り...
「前にも話しましたがそれは新聞というものです。情報を世間に広めるために... 」
「いやそれは分かってるが... !なんだってこういう見出しにするんだよ... 普通にタイランが活躍した事実を書けば良いのに... 」
「事実なんですから仕方ないですよ。まあ本文でも、タイランの情けない様子の描写が目立ちますし、少しばかりの悪意を感じるのは理解できます。一人目の四天王戦の新聞も読んだ事があるでしょう?つまりそういう事です」
なるほど... どうやってか俺たちの事をつけている記者がいたのか。新聞に書いてある内容も、メイの話と一致するな。
「え!?じゃあもしかして、アンと戦ってる時も... いたのか!?この記者が... 」
「はい、ものすごく遠くの方から誰かが見ていました。タイランもなんとなく勘で分かっていたようですね。遠すぎて顔は見えませんでしたが」
「そ、そうなんですね... いらっしゃったのは知っていましたが、私には感じ取れませんでした... 」
ス、スズにも気付かれないほどの隠密能力... 純粋にヤバい人なのでは?
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