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第三章(上)
プレゼントを買いに行こう!
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前回のあらすじ、ジジイ気絶。
あれから二日跨ぎ、俺は王都の城のベッドで朝を迎えていた。
宿や野営のマットとは違い、ふかふかなベッドをゴロゴロと堪能する。
そんな至福の時間を過ごす俺だったが... 微かに人の気配を感じる。
俺も学ぶ男。城のベッドで寝ている時は、必ずと言っていいほどメイが剣を抜いて起こしに来るという事を知っている。というわけで枕にうずめた顔面をちらりと左に向け、うっすらと目を開けると...
「おはようございます、勇者様」
「うわああぁっっ!!」
不意打ち... !
前回のベッドの横にたたずむスタイルではなく、熱を測る、キスの距離に、メイはいた。
「リリー様から、街への買い物に付き合うようにとご指示を頂きました。すでに資金をお受け取りになっていると存じていますが、不足はございませんでしょうか?」
ここで後五分寝たいなどと言おうものなら、問答無用で剣を当てて来るので、頭をポリポリとかき、軽く頷く。
「それではお部屋の外でお待ちしておりますので、お召し替えください」
メイが付き添いかあ... 確かにタイランやリリーよりはまともだけれども、この前のタイランとメイとの一件を見てから、どう接すれば良いものかいまいち分からない。
自分の主人のリボンを付けて、使用済み、なんて呟くものだからスズと同じような香りがするんだよな...
*********
適当に着替え、メイに見守られながら食事を済ませ、街の市場を散策する。
前回来た時にはゆっくり見られなかったが、こうして見てみると結構いろんなものがあるな。食器やお菓子や石鹸など、プレゼントの選択肢もかなり多い。
一番外れなさそうなのはどれだろうか...
「メイ、本ならスズは喜んでくれるかな?」
やっぱり好きなものを贈るのが一番だろ。
「誤った贈り物、とは申し上げませんが、高い確率で、スズ様がすでに所有されている本をお贈りする事になるかと... 王城の図書館はほぼ全てスズ様が管理なされていますので、ご自身で新しい本を購入され、ご自身でお読みになる為に借りられています」
図書館レベルの本の数... この世界の本の知識が無い俺が選ぶと、確実にダブるな。
「しおりとかだと安価すぎるかな?」
「...」
何を考えているかは分からないが、恐らく駄目だということを俺にクッション越しに伝えようとしてくれてるのだろう、口を閉じてからの間が少し怖い。
「やっぱ駄目だよな」
「いえ、高いものでも銅貨数枚ですが、スズ様がコレクションされているという話を伺った事がありますので、不適切ではないかと」
でもしおりだと少しショボいかもなあ...
「食器とかはどう?ほら、ティーカップとか」
「...」
あ、これも駄目っぽい、何か考えている。
「分かった、じゃあアクセサ... 」
「勇者様、アクセサリーになさるのですか?」
うわ、食いついてきた。さっきまで俺の少し後ろを歩いていたのに、歩みを速めてすぐとなりに来ている。
「いや、まだ決めたわけじゃ... 」
「おすすめの店がございます。参りましょう」
「え、ちょ... 」
さっきまでの一歩引いた姿勢はどこへやら、俺の腕を強く引っ張り、早歩きさせられる。ちらっと見えたメイの瞳はどこかキラキラ光っていて...
しまった、アクセサリーが地雷だったのか...
********
あれよあれよと連れてこられたのは、ガラス張りの外観を持つ少し高そうな装飾品店。店員さんと俺の服とを見比べると... 釣り合ってない。結構場違いな感じがする。
だが、店員がメイの事を一目見ると表情が柔らかいものになり、軽くお辞儀をしてそそくさと店の裏側に入って行ってしまう。
結構な常連ぽい?
「勇者様」
一足先にショーケースのそばまで行ったメイに手招かれる。そして、一つのガラスの奥の、小さな宝石があしらってある赤い髪留めを手のひらで指し...
「スズ様が日常的にお身につけになる際、戦闘の妨げになるか、スズ様が興じておられます、物語に沿ったものかどうかを第一にお考えになります。その点から、ネックレスや指輪、イヤリングなどは好まれないでしょう」
いつもより少し早口だったが、まあ言いたい事は理解できる。でもてっきり女性が装飾品を選ぶ時に重視するのはまず見た目なのかと...
「ネックレスやイヤリングなどの、戦いの妨げになるものを除くと、恐らく髪留めが適切かと存じます」
「その二つは分かるけど、指輪は何で駄目なんだ?」
「... 」
やべえ、また何て言おうか考えている。
「じゃ、じゃあかみ... 」
「初めての指輪は、婚約者の方からお受け取りになるもの、とお考えになられています」
ロ、ロマンチスト...
「とにかく、メイから見るとそういう髪留めが良いって話か。じゃあ後は俺がデザインや色を選んで...」
「はい、スズ様の長い髪を結い、少し派手にうなじを出されたり、おでこを出されれば、いつもとは少し異なる、上品な雰囲気が漂うかと思われます」
ほうほう、髪留めならスズの好きなように付けることが出来るから、喜ばれる可能性が高いと.,.
「ですので、私はこちらと似たデザインの物を贈らせていただこうと考えております」
なるほど、つまり俺がこれを選ぶと...
「丸被りじゃねえか!!」
「はい、ですのでこれはあくまで私の考えです。勇者様が選ぶ時の参考になればと思います」
くっ... 確かに俺自身ではなく、メイの考えに丸々乗っかろうというのは良くない... が、だとしても、なんだか言語化出来ないもやもや感が残る...
「よしメイ。他の物を探しに行こう」
「かしこまりました」
というわけで店を出て再度市場をぶらつく。装飾品となると選択肢が限られるし、他に身に着ける物... 服とかにしても好みとか機能性の問題があるからなあ...
趣味やファッション以外で考えると... 美容系?なんか他におしゃれな物とか。
香水?それだと身に着けてくださいって言ってるようなものだしな。でも香りを楽しむっていう発想は悪くないと思うぞ俺。
香り、香り...
「メイ!アロマオイルって... ある?」
「はい、市場でも度々見かけますので、もう少し歩いて探してみましょうか」
よし、ふふふ完璧だ、半ば消去法ではあったが、使い方にはそれなりに自由度があるし、癖の弱い香りを選べば割と無難な物ではないだろうか。
という訳で、途中に見つけた店で色々試す。最終的に、お菓子のようなアーモンドやバニラに似た、少し甘いナッツのような香りのアロマオイルを、銀貨ニ枚で購入。
「勇者様、誠に失礼な事を申し上げますが... 無難ですね」
メイ、いくら異世界人だからといって、女性経験ゼロの男に期待するのはやめてくれ...
ーーーーーーーーー
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あれから二日跨ぎ、俺は王都の城のベッドで朝を迎えていた。
宿や野営のマットとは違い、ふかふかなベッドをゴロゴロと堪能する。
そんな至福の時間を過ごす俺だったが... 微かに人の気配を感じる。
俺も学ぶ男。城のベッドで寝ている時は、必ずと言っていいほどメイが剣を抜いて起こしに来るという事を知っている。というわけで枕にうずめた顔面をちらりと左に向け、うっすらと目を開けると...
「おはようございます、勇者様」
「うわああぁっっ!!」
不意打ち... !
前回のベッドの横にたたずむスタイルではなく、熱を測る、キスの距離に、メイはいた。
「リリー様から、街への買い物に付き合うようにとご指示を頂きました。すでに資金をお受け取りになっていると存じていますが、不足はございませんでしょうか?」
ここで後五分寝たいなどと言おうものなら、問答無用で剣を当てて来るので、頭をポリポリとかき、軽く頷く。
「それではお部屋の外でお待ちしておりますので、お召し替えください」
メイが付き添いかあ... 確かにタイランやリリーよりはまともだけれども、この前のタイランとメイとの一件を見てから、どう接すれば良いものかいまいち分からない。
自分の主人のリボンを付けて、使用済み、なんて呟くものだからスズと同じような香りがするんだよな...
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適当に着替え、メイに見守られながら食事を済ませ、街の市場を散策する。
前回来た時にはゆっくり見られなかったが、こうして見てみると結構いろんなものがあるな。食器やお菓子や石鹸など、プレゼントの選択肢もかなり多い。
一番外れなさそうなのはどれだろうか...
「メイ、本ならスズは喜んでくれるかな?」
やっぱり好きなものを贈るのが一番だろ。
「誤った贈り物、とは申し上げませんが、高い確率で、スズ様がすでに所有されている本をお贈りする事になるかと... 王城の図書館はほぼ全てスズ様が管理なされていますので、ご自身で新しい本を購入され、ご自身でお読みになる為に借りられています」
図書館レベルの本の数... この世界の本の知識が無い俺が選ぶと、確実にダブるな。
「しおりとかだと安価すぎるかな?」
「...」
何を考えているかは分からないが、恐らく駄目だということを俺にクッション越しに伝えようとしてくれてるのだろう、口を閉じてからの間が少し怖い。
「やっぱ駄目だよな」
「いえ、高いものでも銅貨数枚ですが、スズ様がコレクションされているという話を伺った事がありますので、不適切ではないかと」
でもしおりだと少しショボいかもなあ...
「食器とかはどう?ほら、ティーカップとか」
「...」
あ、これも駄目っぽい、何か考えている。
「分かった、じゃあアクセサ... 」
「勇者様、アクセサリーになさるのですか?」
うわ、食いついてきた。さっきまで俺の少し後ろを歩いていたのに、歩みを速めてすぐとなりに来ている。
「いや、まだ決めたわけじゃ... 」
「おすすめの店がございます。参りましょう」
「え、ちょ... 」
さっきまでの一歩引いた姿勢はどこへやら、俺の腕を強く引っ張り、早歩きさせられる。ちらっと見えたメイの瞳はどこかキラキラ光っていて...
しまった、アクセサリーが地雷だったのか...
********
あれよあれよと連れてこられたのは、ガラス張りの外観を持つ少し高そうな装飾品店。店員さんと俺の服とを見比べると... 釣り合ってない。結構場違いな感じがする。
だが、店員がメイの事を一目見ると表情が柔らかいものになり、軽くお辞儀をしてそそくさと店の裏側に入って行ってしまう。
結構な常連ぽい?
「勇者様」
一足先にショーケースのそばまで行ったメイに手招かれる。そして、一つのガラスの奥の、小さな宝石があしらってある赤い髪留めを手のひらで指し...
「スズ様が日常的にお身につけになる際、戦闘の妨げになるか、スズ様が興じておられます、物語に沿ったものかどうかを第一にお考えになります。その点から、ネックレスや指輪、イヤリングなどは好まれないでしょう」
いつもより少し早口だったが、まあ言いたい事は理解できる。でもてっきり女性が装飾品を選ぶ時に重視するのはまず見た目なのかと...
「ネックレスやイヤリングなどの、戦いの妨げになるものを除くと、恐らく髪留めが適切かと存じます」
「その二つは分かるけど、指輪は何で駄目なんだ?」
「... 」
やべえ、また何て言おうか考えている。
「じゃ、じゃあかみ... 」
「初めての指輪は、婚約者の方からお受け取りになるもの、とお考えになられています」
ロ、ロマンチスト...
「とにかく、メイから見るとそういう髪留めが良いって話か。じゃあ後は俺がデザインや色を選んで...」
「はい、スズ様の長い髪を結い、少し派手にうなじを出されたり、おでこを出されれば、いつもとは少し異なる、上品な雰囲気が漂うかと思われます」
ほうほう、髪留めならスズの好きなように付けることが出来るから、喜ばれる可能性が高いと.,.
「ですので、私はこちらと似たデザインの物を贈らせていただこうと考えております」
なるほど、つまり俺がこれを選ぶと...
「丸被りじゃねえか!!」
「はい、ですのでこれはあくまで私の考えです。勇者様が選ぶ時の参考になればと思います」
くっ... 確かに俺自身ではなく、メイの考えに丸々乗っかろうというのは良くない... が、だとしても、なんだか言語化出来ないもやもや感が残る...
「よしメイ。他の物を探しに行こう」
「かしこまりました」
というわけで店を出て再度市場をぶらつく。装飾品となると選択肢が限られるし、他に身に着ける物... 服とかにしても好みとか機能性の問題があるからなあ...
趣味やファッション以外で考えると... 美容系?なんか他におしゃれな物とか。
香水?それだと身に着けてくださいって言ってるようなものだしな。でも香りを楽しむっていう発想は悪くないと思うぞ俺。
香り、香り...
「メイ!アロマオイルって... ある?」
「はい、市場でも度々見かけますので、もう少し歩いて探してみましょうか」
よし、ふふふ完璧だ、半ば消去法ではあったが、使い方にはそれなりに自由度があるし、癖の弱い香りを選べば割と無難な物ではないだろうか。
という訳で、途中に見つけた店で色々試す。最終的に、お菓子のようなアーモンドやバニラに似た、少し甘いナッツのような香りのアロマオイルを、銀貨ニ枚で購入。
「勇者様、誠に失礼な事を申し上げますが... 無難ですね」
メイ、いくら異世界人だからといって、女性経験ゼロの男に期待するのはやめてくれ...
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