勇者(俺)いらなくね?

弱力粉

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第三章(上)

お小遣いをもらった!

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前回のあらすじ、四天王のジジイを拾った。


何者も脅かす事の出来ない、安らぎの時間。一生のうちに三分の一もの時を過ごすベッドの上で、俺は目を覚ます。

意識はあっても、はっきりと体を起こし、活発に動くというにはまだ早い。そんな穏やかな時間を、俺は過ごしていた。

もぞもぞと足を動かし、寝返りのようものをうってみたり、枕の位置を微調整したりする。こういう何気ない時間っていうのが、人間にとっては必要なんだ。

だが、そんな時間もすぐに終わってしまう。

俺が原因ではない布が擦れる音が鳴り、同室人の存在を俺に意識づける。

ビクッと体が跳ね、布団を蹴飛ばして床に足を着け、もう片方のベッドを確認すると... 俺のベッドの反対側に、半目のリリーがのそのそと歩いてきてるのが伺える。


「お、おはよう、リリー」

「ふ、ふ、はああああぁぁ... おはようございます、もう起きているだなんて珍しいですね」


セ、セーフ... 二回も床に蹴飛ばされて起こされていたから体が危機感を覚えちまったぜ。

だが... すでに俺と目が合い、俺を認知し、俺と挨拶を交わしたリリーだが... なぜか不可解な行動に出る。


「あ、あれ?へっぽこ、もう起きていましたか」


右足を俺が寝ていたところに起き、足裏で空気を蹴るようにして動かし、何もない事を確認すると... 再度俺が起きてる事実を認識する。


「お、おう。俺はもう起きてるから起こさなくて... 」

「口をゆすいできますね... 着替えて朝食を食べたら出発しますよ」


と、言いたいことだけ言い、両腕を様々なおかしな形に伸ばしながら部屋を出る。

もしかして... めちゃくちゃ朝に弱い?


*********


「これを、全部で銀貨十枚です」

「え?」


俺がちょうど着替え終わった頃、リリーが寝巻きのままテーブルにつき、硬貨を何枚か置く。

か、金だ... 確か銀貨一枚で大体一万円位だから、十万円位か?まさかの小遣い!?


「... あなたの考えている事とは少し違います。実は四日後はスズの誕生日で、王都に帰ったらすぐにパーティーが開かれます。という訳で、あなたからも何か、適当にプレゼントを買ってください」


お、お姫様へのプレゼント?どんな物でも手に入りそうな地位の人に、何を渡せばいいのだろうか... 最初に思いつくのは宝石や装飾品の類いだが、スズはそういう物を身につけないみたいだし... 


「まあ、何でも良いんです。異世界人のあなたが贈った物というだけで、物語好きのスズなら喜んでくれます。あと、余ったお金は好きに使って良いですよ」


あ、余った金は小遣いだと!?この世界に来てから二週間弱、自分で好きなように使える金など無かった俺に、金が舞い込んできただと!


「王都に戻ったら、街で何か合いそうな物を探すよ」


喋りながら銀貨に手を伸ばそうとするが... 俺の動きを止めるように、リリーが銀貨にいち早く手をかざす。


「何でも良い、とは言いました。ですが、それ相応の、適切な物をお願いしますよ?」


と念を押すと、リリーは自分の方に銀貨を手繰り寄せ、小さな麻袋の中にそれを詰める。

ちゃ、ちゃんとした物を買わなくては... 


*********


タイランとメイ、それに少しやつれた未だに右手の無いジジイと、少し肌を潤わせたスズと食堂で合流し、とっとと朝食を平らげ、街から出る。

平坦で何もない道のりを、タイランが荷車を引く中、むさ苦しい老人は俺の隣でいびきを立てていた。が... ふとひょこっと起きたかと思うと、荷台を引っ張るタイランを見つめる。

すると何を思ったのか、ポケットからくしゃくしゃに丸めた紙を取り出し、タイランに向かって放る。


「ほい」


あ、命知らずだこのジジイ。

そしてその紙くずの気配を感じ取ったのか、はたまた勘からか、タイランが顔だけ振り向かせると、人差し指を掲げ、紙くずに触れる。


「何だあ今の?んん?」


おお、紙くずが消えた。タイランが指で触れた所から、チリになるようにふわっと消えていったぞ。燃えかすを触った時に、崩れ落ちるような感覚に近いかな?


「ほっほっほっ、しっかり自分の目で確認すると、とても面白い能力じゃのう」


その言葉を聞いたタイランは、ジジイを睨みつけたかと思うと... 負けじとポケットから何か小さな物を取り出し、指で弾く。

すると、ピンという音と共に何かが空気を切り裂き、俺の真横をそれが通り抜ける。


「ぐぎゃっ!」

「があはっはっはっ!お得意の振動操作はどうしたんだジジイ!」


見れば、荷台の足元に転がっていたのはベージュ色の可愛らしいボタンで... 

ははーん、これを飛ばしたのか。それにしてもものすごい威力だこと。


「タイランお嬢様、程々にお願いします。痛みで気絶されていますので」

「ああ?散々攻撃してきたけどよ、やっぱり俺の能力の方が上みたいだな!」


な、なるほど、今のはボタンに運動エネルギー?を加えたらしい。素の力がどれほどか分からないから、なんとも言えないが。

そういえばエネルギーを加えるって言うが、具体的に何が出来るんだ?


「タイラン、エネルギーを加えるって言うなら、お湯を沸かしたりも出来るのか?後... なんかこう、電気みたいなこととか」


するとタイランはキョトンとした顔を浮かべ... 


「へっぽこよお、湯を沸かすって事は俺がそれに触れてないといけないんだぜ。それをやろうしたら手が火傷しちまう。それに、電気もまだちゃんとイメージ出来ないしなあ」


まあ確かに触れてたら火傷するよな。


「電気が使えたとしても、方向を指定して雷を放出するくらいしか無さそうだしな。そんな事するくらいなら俺が殴ったほうが早いぜ」


それを突き詰めていくと能力全般いりませんよ。

後、エネルギーで出来るのは... 水力エネルギーとか風力エネルギーとかは聞いたことあるけど、あれってなんなんだろうか。発電するってのは知ってるけど、結局仕組みが分からないしな。


「あ、光とかはどうなんだ?ほら、太陽みたいに発光したりとかは... 」

「へっぽこよお、あれは熱いから発光してるんだぜ?熱い金属とかと同じ感じだ。そんな事したら体が溶けちまうよ」


異世界の能力のくせに、無駄に物理法則に沿ってるのが面倒だな... どうせ何かしら非科学的な事をしているんだろうから、そのくらい融通してくれても良さそうなものだが。

と、少し考えているとスズと目が合い、微笑みかけられる。

タイランの能力がどうだこうだと言うより、目の前のもっと大きな問題を解決せ
しなければなと、前世でテレビに流れていた、女の子の好きそうなものが頭に浮かぶ。



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