勇者(俺)いらなくね?

弱力粉

文字の大きさ
上 下
23 / 115
第一章

第12話

しおりを挟む

前回のあらすじ、四天王討伐。


「スズぅううう、それでですね、親分がいうわけですよ!」


なんか気絶する前に格好をつけたが、結局骨は折れていなかったようだった。打撲と捻挫だけで済んだ俺は、町長の屋敷のベッドで休んでいた。


「気合が足りないって、お姉ちゃんあの時カチンと来ましたね!」


ベッドのそばではスズが俺に背を向けるようにし、リリーと向かい合って座っている。延々とリリーが喋り続け、四天王戦の話が終わったと思うと、リリーの盗賊時代の話をし始める。

なんでも、能力が発動した時になんらかの理由で自分が本当にスズの姉だと悟ったようで、孤児院を出て盗賊の一員になったらしい。


「親分を洞窟に連れ込んでボコボコに殴っていたら、スズが兵士を連れてやってきたんですよ。スズは覚えていますか?」


リリーみたいな化け物が捕まったのってそういう経緯だったのか... スズに追い詰められても、リリーなら勝てるのだろうか?


「実を言うと、あの時お姉ちゃんは怖かったんです。スズの物語への好奇心は知っていましたから、お姉ちゃんの方へ、その好奇心を向けているんじゃないかって。それを知るのが... 怖かったんです」


一拍置き、俯かせた顔を上げるリリー。


「でも、お姉ちゃんはちゃんと覚えています。あの時のスズの感情は好奇心でも、憐れみでもなかった。純粋に私の事を心配してくれていたんです!その時、とても嬉しかったんです」


スズはさっきから何も言わない。また一拍置き、喋り出すリリー。


「この事をずっと言いたかったんです。でも、言えなくて...」


言い終わるが早いか、スズはリリーを抱きしめ、背中に手を滑り込ませてしまう。少しすると、リリーは椅子に寄りかかって目を瞑る。

そう、昨日からなぜかリリーの魂の鍵だけを外さなかったスズが、今、鍵を外したのだ。


「ええと、スズ。何というか二人の話を聞いてしまって申し訳ないと言うかその...」


スズは何も言わず、俺が横たわっているベッドのある、壁の方に顔を向ける。

その時、スズの顔が見えた。

両手をお祈りするように組み、目を瞑っているスズ。軽く微笑み、目を開けると... そこにはなじみの好奇心の目が宿っていた。

う、嘘だろスズ... あの話の後でもその表情なのか...


「スズゥ!一旦王都に戻るぞ!!報奨金貰って美味い物でも食おうぜ!!」


ノックすらせずに勢いよく扉を開けて入って来るタイラン。後ろにはメイドが控えていた。

そういえばメイドの兄ってどうなったんだろうか... 多分俺を追いかけて来た奴らの中にいたんだろうけど... あ、タイランが親指立ててこっち見てる、何したんだよ。


「つ、次はどんな物語が待っているか、楽しみですね」

「今回はリリーとへっぽこに全部持ってかれたからな!俺もそろそろ戦いたいぜ!」


結局タイランは一度も戦えず、痺れ薬を受けて、自制心を失って、恥ずかしい所を見せただけか... 全く気にしていないみたいだけれど。


「あの、勇者様達は王都に戻られるんですよね?王都で思いだしたのですが、こんな新聞が出回っていまして...」


メイドに渡されたのは、ついこの間も見たようなただの新聞。上の方には派手に号外と記されている。

な、なんか嫌な予感が...


『四天王の一人目を勇者パーティーが討伐!だがおもらし勇者は少女にボコボコに負ける!?』

「なんっじゃこりゃああああああっっ!!」


新聞を縦に割き、視界にはメイドが映る。


「こ、これは新聞と呼ばれるものでして、情報を拡散させるものです。それが先ほど王都へも運ばれて行きました... どうやら昨日の庭での様子が誰かに見られていたようでして... 申し訳ありません!」


お、俺のイメージが... 四天王の一人を倒せば少しは良くなると思っていたのに、また...


「で、ですがそこには勇者様が特訓されている模様が記されているので、そこまで悪い記事ではないかと...」

「タイトルに悪意がありすぎるだろうが!どこの世界でもマスコミってやつは...!」


騒がしい中、リリーが目を覚ましたのか立ち上がる。


「おはようございます、リリーさん」


スズの目は変わっていない、好奇心の目だった。

スズゥ!リリーにその顔を見せていいのか!いい話が台無しになるぞ!

リリーはスズに目を向けず、タイランの方を見る。


「リリー、終わったし王都に戻ろうぜー」

「ええ、四天王の一人を倒したということで、あの阿呆から金を貰いに行きますよ。へっぽこ勇者も、足が治ったらとっととまた走り込みをしますよ。後、スズ...」


スズの方を見るともじもじし出して...


「あ、ありがとうございます...」

「リリーさん、顔が赤くなっていますよ?」

「な... これは暑いだけです!さあタイラン、へっぽこ勇者!行きますよ!!」


え、えーとつまり... これはどういうことなんでしょう...

ずんずんと部屋から出て行ってしまうリリー、タイランも元気に後をついていく。後に続くスズの顔には、心なしか好奇心の中に、少し嬉しさも混じっているような気もした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...