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第一章
第11話
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前回のあらすじ、能力発動せず。
走ったは走った。命がかかっている訳だから、当然死に物狂いで走った。だがどうだろう、全く疲れもしないのに、ただっ広い部屋を少し走り回るだけで男共は床にへたり込み、息を荒げていた。
あ、特訓って本当に逃げる特訓で、能力の特徴って戦闘力を奪うってことか... そもそも元が無職だからか、体力の無い男たちが多いのか。紛らわしすぎるだろリリーさんよ...
男共を振り切って余裕が出来たので辺りを見渡してみると、部屋の中心でリリーがナイフを器用に投げて遊んでいるのが伺える。その様子から察するに、四天王は倒せたようだった。
俺の役目は雑魚敵の処理で終わってしまったか... 結局能力は発動しなかったし、ただ走って男共の注意を引き付けただけだ。
「おーいリリー!こっちは終わったぞ!」
だが、リリーは遊んでいたナイフを突然上に投げてしまい、飛び上がろうとする。だが思ったより飛べなかったようで、床にある何かを睨みつける。
下に敵がいるようだった。足手まといになるかもしれないが走って助けに向かう。上半身を床下から出した魔物を見て直感が告げる、あいつは強い。
「両手で掴みました。放しませんよ?直に触れば鍵のかかる速度は段違いです」
「くっ!」
鍵!?まさかあいつが四天王なのか?スキンヘッドの男はただの小ボスか?いや、そんなことよりもリリーの自制心が失われたら負ける!
慌てて駆け出すが距離は遠い。リリーみたいな速度で走れるわけじゃないし、タイランのような体力の消耗度外視の走りは出来ない。でも、リリーを助けないと、たどり着かないと、最初の中ボスで全滅してしまう!
「なーんちゃって、私の能力が身体能力向上とか、笑わせないでくださいよ」
苦悶に満ちたリリーの表情がコロッと変わり、いつも俺を特訓するときの笑みを浮かべる。
「あ、あなた!?手に持っていたナイフはどこへ!?」
「私の能力はですね、相手の感情を読み取る事が出来る能力なんです」
か、感情を読み取る能力?
「相手の目線、表情筋、汗、脈拍、呼吸から、相手の次の行動を予測、そして相手のどういう場所にどういう力を加えれば気絶するのかも分かります」
「ぐ、ぐわあああああああああ!!」
鈍い音と共に四天王の両腕にナイフが刺さり、そこから赤黒い霧のようなものが吹き出す。そしてそばには切り取られた両腕が転がる。
足を掴まれたあの時、すでに上に投げていたのか?
「あの男の魔物は床に気をつかい過ぎたんですよ。終始嘘をついていましたし、四天王で無い事は明らかでした。そしてあなたは油断の感情を抱いた、だから私が上にナイフを投げたことに気がつけなかった」
た、たちが悪すぎる... じゃ、じゃあ今まで俺を殴っていたのはあんな感情やこんな感情を見せたからなのか?
少し立ち止まり、呼吸を整える。
結局最後にはリリーがとどめを刺してしまい、俺は最初からいらなかったようだった。
ほっとしたような、少し悲しいようなため息をついて四天王の方をもう一度見ると...
四天王は怯んでいなかった。
すでに両腕を失って戦闘不能のはずなのに、逃げることも、降伏することもしない。
「ふ、ふうううううう... いくら人間を模倣しているとはいえ、これは即死レベルでは、あ、ありません。ですが、あなたはもう、手遅れですよね?」
四天王がそう言った瞬間、リリーの目が明らかに変わる。
同じだ。メイドやタイランの見せた、あの言いようのない表情。リリーの自制心が失われてしまっている。
「今までなんとか頑張っていたみたいですけれど、さすがに反動が強すぎたようですね。すぐには動けないでしょう」
両腕の痛みはどこへやら、体をクネクネと動かしながらリリーを眺めている。
「ふふ... ふふふふふふ... どういう表情を見せてくれるのですか?その小さな体の奥底には何が隠されているのですか?あなたの真の声、記憶、思考回路を... 見せてください!!」
「リリー!しっかりしろ!!」
声をかけるも空しく、リリーは膝から崩れ落ち、そしてそのまま空気の一点を見つめたままになってしまう。
「リ、リリー!!」
声はリリーの耳に届いているはずなのに、ピクリとも反応がない。
四天王がどこか艶めかしい息を吐きながら、まるで店の前に飾られている人形を眺めるようにして顔を近づけるが、瞬きをすることもなく、ただ空中のとある一点を見つめている。
「早く、早く、早く... 私に見せてくださいよ。人間の欲深い部分、他人には見せられない感情や記憶をぜーんぶ全部私にさらけだしてください... あら?」
ただの飾りとなっていた、自分の短剣を投げる。軽く首を傾けられ、四天王には避けられてしまうが、それでいい。こちらに気を向け、リリーから注意を反らすんだ。自制心を失ったリリーがどういう行動を取るかは分からないが、動けるようになった時に四天王に注意されているのはまずい。
「うーん... 勇者は後衛に特化した能力を持っているはずなのですが... 本当に今戦うんですか?後の二人はもうすでに自制心を失っているとかですかね?」
「うるさい!俺と... 俺と戦え!!」
四天王はニヤリと笑みを浮かべると、素早くタイルの中に身を引いて消えてしまう。
下からだ、どこかのタイルから奴が攻撃して来るはずだ。耳を澄ませば聞こえるはず。
瞬間、タイルが素早く擦れる音を合図に、俺は高く飛ぶ。俺の足があった場所には奴の足が伸びていた。
「タイミングだ、タイミングさえ分かればお前の攻撃なんか怖くないぞ!!」
「あなた... 戦闘能力が低いうえに頭まで悪いんですか?」
頭が悪いだと?それは違う、奴はこう考えているに違いない。ジャンプで避けられてしまったのだったら、その軌道を読み、着地点を予測してそこを叩けば良いと。だが、その行動を読まれてしまったら、それは明確な弱点、隙だ。
腰から抜いたのはリリーから貰った投げナイフ。それを思い切り自分の着地点に振りかざすと... 予想通りタイツに包まれた四天王の足が伸びて来る。着地と同時に当てるつもりだったのだろう。
ぷすりと鈍い感触がした。勢いのせいか、不思議と骨の感触はしない。まるで鶏肉に刃をいれたようだ。けれどもそんな生易しいものでは無いとわかっているから、少し気持ち悪くなってしまう。
「ぐ、ぐああああああああ!!」
だがそこには明らかな喜びがあった。読みが当たったこと、リリーを救えたこと、そして何よりも、能力が発動していないのにも関わらず四天王を倒せたこと。この事実は多少の不快感を消してくれるのに充分だった。
だが、詰めが甘かった。
腰に強い衝撃を感じると、強く握っていたナイフと共に俺は吹っ飛ばされ、横ばいに寝転がる。
もう片方の足で蹴られたらしい。連日何度もパーティー仲間から蹴飛ばされていたのに、一向に慣れないどころか、今のそれは仲間の蹴りのどれよりも強いものだった。
息が詰まる、涙が出て来る、腰がずきずきする。
だがそんなことどうでもいい、次の一発に備えるんだ。
「りょ、両腕と片足で勇者を倒せるんなら、充分おつりが返ってきます。敵を完全に倒すまでは油断をしてはいけませんよ?か、完全に仕留めてこそ、勝利と言えるのです」
次だ、次の攻撃に備えろ。奴は油断している、俺が痛みで身動きが取れないと思っているに違いない。
ぬるりと床下から出てきた四天王がこちらに走ってくる。足の平の痛みなど気にせずに俺にとどめを刺そうとしている。そして片膝を曲げる。
聞こえる、リリーの言葉が。予備動作を見ろと、相手の攻撃を予測しろと言っている。
ローキックだ。
最後の力を振り絞り、投げナイフを向け、床を蹴る。そして念じた。叫んだ。
「死ねええええええええ!!!!!くそ魔物が!!!!!!」
だが、横腹に鈍い痛みが走り、両足が地面から離れるのが分かる。痛みで考えがまとまらず、眠くなってくる。
ただ、悲しいひとつの事実だけは理解していた。確実にナイフは俺の両手に強く握りしめたままだったことだ。
床に体が叩きつけられ、その事実を更に強く実感する。
やばい... もう動けない...
だが目を開けると、全身から霧が吹き出すように発散していくように見える奴の頭には、ナイフが刺さっていた。それだけは見えた。だが、俺の持っていたナイフはただの一本のみで、それは今俺が吹っ飛ばされている間も、今も、手に持っている。届かなかったからだ。
じゃあ、誰がどうやってナイフを刺したのか。
「敵を完全に倒すまでは油断をしてはいけない。本当にそのとおりだと思います。これで、スズに土産話が出来ますね」
「なぜ私の体が... 発散... これが... 勇者の...?」
ああ、もうだめだ。眠い。これあれだ、漫画とかだと骨が折れているやつ。でもリリー... 動くのが、遅いぞ...
走ったは走った。命がかかっている訳だから、当然死に物狂いで走った。だがどうだろう、全く疲れもしないのに、ただっ広い部屋を少し走り回るだけで男共は床にへたり込み、息を荒げていた。
あ、特訓って本当に逃げる特訓で、能力の特徴って戦闘力を奪うってことか... そもそも元が無職だからか、体力の無い男たちが多いのか。紛らわしすぎるだろリリーさんよ...
男共を振り切って余裕が出来たので辺りを見渡してみると、部屋の中心でリリーがナイフを器用に投げて遊んでいるのが伺える。その様子から察するに、四天王は倒せたようだった。
俺の役目は雑魚敵の処理で終わってしまったか... 結局能力は発動しなかったし、ただ走って男共の注意を引き付けただけだ。
「おーいリリー!こっちは終わったぞ!」
だが、リリーは遊んでいたナイフを突然上に投げてしまい、飛び上がろうとする。だが思ったより飛べなかったようで、床にある何かを睨みつける。
下に敵がいるようだった。足手まといになるかもしれないが走って助けに向かう。上半身を床下から出した魔物を見て直感が告げる、あいつは強い。
「両手で掴みました。放しませんよ?直に触れば鍵のかかる速度は段違いです」
「くっ!」
鍵!?まさかあいつが四天王なのか?スキンヘッドの男はただの小ボスか?いや、そんなことよりもリリーの自制心が失われたら負ける!
慌てて駆け出すが距離は遠い。リリーみたいな速度で走れるわけじゃないし、タイランのような体力の消耗度外視の走りは出来ない。でも、リリーを助けないと、たどり着かないと、最初の中ボスで全滅してしまう!
「なーんちゃって、私の能力が身体能力向上とか、笑わせないでくださいよ」
苦悶に満ちたリリーの表情がコロッと変わり、いつも俺を特訓するときの笑みを浮かべる。
「あ、あなた!?手に持っていたナイフはどこへ!?」
「私の能力はですね、相手の感情を読み取る事が出来る能力なんです」
か、感情を読み取る能力?
「相手の目線、表情筋、汗、脈拍、呼吸から、相手の次の行動を予測、そして相手のどういう場所にどういう力を加えれば気絶するのかも分かります」
「ぐ、ぐわあああああああああ!!」
鈍い音と共に四天王の両腕にナイフが刺さり、そこから赤黒い霧のようなものが吹き出す。そしてそばには切り取られた両腕が転がる。
足を掴まれたあの時、すでに上に投げていたのか?
「あの男の魔物は床に気をつかい過ぎたんですよ。終始嘘をついていましたし、四天王で無い事は明らかでした。そしてあなたは油断の感情を抱いた、だから私が上にナイフを投げたことに気がつけなかった」
た、たちが悪すぎる... じゃ、じゃあ今まで俺を殴っていたのはあんな感情やこんな感情を見せたからなのか?
少し立ち止まり、呼吸を整える。
結局最後にはリリーがとどめを刺してしまい、俺は最初からいらなかったようだった。
ほっとしたような、少し悲しいようなため息をついて四天王の方をもう一度見ると...
四天王は怯んでいなかった。
すでに両腕を失って戦闘不能のはずなのに、逃げることも、降伏することもしない。
「ふ、ふうううううう... いくら人間を模倣しているとはいえ、これは即死レベルでは、あ、ありません。ですが、あなたはもう、手遅れですよね?」
四天王がそう言った瞬間、リリーの目が明らかに変わる。
同じだ。メイドやタイランの見せた、あの言いようのない表情。リリーの自制心が失われてしまっている。
「今までなんとか頑張っていたみたいですけれど、さすがに反動が強すぎたようですね。すぐには動けないでしょう」
両腕の痛みはどこへやら、体をクネクネと動かしながらリリーを眺めている。
「ふふ... ふふふふふふ... どういう表情を見せてくれるのですか?その小さな体の奥底には何が隠されているのですか?あなたの真の声、記憶、思考回路を... 見せてください!!」
「リリー!しっかりしろ!!」
声をかけるも空しく、リリーは膝から崩れ落ち、そしてそのまま空気の一点を見つめたままになってしまう。
「リ、リリー!!」
声はリリーの耳に届いているはずなのに、ピクリとも反応がない。
四天王がどこか艶めかしい息を吐きながら、まるで店の前に飾られている人形を眺めるようにして顔を近づけるが、瞬きをすることもなく、ただ空中のとある一点を見つめている。
「早く、早く、早く... 私に見せてくださいよ。人間の欲深い部分、他人には見せられない感情や記憶をぜーんぶ全部私にさらけだしてください... あら?」
ただの飾りとなっていた、自分の短剣を投げる。軽く首を傾けられ、四天王には避けられてしまうが、それでいい。こちらに気を向け、リリーから注意を反らすんだ。自制心を失ったリリーがどういう行動を取るかは分からないが、動けるようになった時に四天王に注意されているのはまずい。
「うーん... 勇者は後衛に特化した能力を持っているはずなのですが... 本当に今戦うんですか?後の二人はもうすでに自制心を失っているとかですかね?」
「うるさい!俺と... 俺と戦え!!」
四天王はニヤリと笑みを浮かべると、素早くタイルの中に身を引いて消えてしまう。
下からだ、どこかのタイルから奴が攻撃して来るはずだ。耳を澄ませば聞こえるはず。
瞬間、タイルが素早く擦れる音を合図に、俺は高く飛ぶ。俺の足があった場所には奴の足が伸びていた。
「タイミングだ、タイミングさえ分かればお前の攻撃なんか怖くないぞ!!」
「あなた... 戦闘能力が低いうえに頭まで悪いんですか?」
頭が悪いだと?それは違う、奴はこう考えているに違いない。ジャンプで避けられてしまったのだったら、その軌道を読み、着地点を予測してそこを叩けば良いと。だが、その行動を読まれてしまったら、それは明確な弱点、隙だ。
腰から抜いたのはリリーから貰った投げナイフ。それを思い切り自分の着地点に振りかざすと... 予想通りタイツに包まれた四天王の足が伸びて来る。着地と同時に当てるつもりだったのだろう。
ぷすりと鈍い感触がした。勢いのせいか、不思議と骨の感触はしない。まるで鶏肉に刃をいれたようだ。けれどもそんな生易しいものでは無いとわかっているから、少し気持ち悪くなってしまう。
「ぐ、ぐああああああああ!!」
だがそこには明らかな喜びがあった。読みが当たったこと、リリーを救えたこと、そして何よりも、能力が発動していないのにも関わらず四天王を倒せたこと。この事実は多少の不快感を消してくれるのに充分だった。
だが、詰めが甘かった。
腰に強い衝撃を感じると、強く握っていたナイフと共に俺は吹っ飛ばされ、横ばいに寝転がる。
もう片方の足で蹴られたらしい。連日何度もパーティー仲間から蹴飛ばされていたのに、一向に慣れないどころか、今のそれは仲間の蹴りのどれよりも強いものだった。
息が詰まる、涙が出て来る、腰がずきずきする。
だがそんなことどうでもいい、次の一発に備えるんだ。
「りょ、両腕と片足で勇者を倒せるんなら、充分おつりが返ってきます。敵を完全に倒すまでは油断をしてはいけませんよ?か、完全に仕留めてこそ、勝利と言えるのです」
次だ、次の攻撃に備えろ。奴は油断している、俺が痛みで身動きが取れないと思っているに違いない。
ぬるりと床下から出てきた四天王がこちらに走ってくる。足の平の痛みなど気にせずに俺にとどめを刺そうとしている。そして片膝を曲げる。
聞こえる、リリーの言葉が。予備動作を見ろと、相手の攻撃を予測しろと言っている。
ローキックだ。
最後の力を振り絞り、投げナイフを向け、床を蹴る。そして念じた。叫んだ。
「死ねええええええええ!!!!!くそ魔物が!!!!!!」
だが、横腹に鈍い痛みが走り、両足が地面から離れるのが分かる。痛みで考えがまとまらず、眠くなってくる。
ただ、悲しいひとつの事実だけは理解していた。確実にナイフは俺の両手に強く握りしめたままだったことだ。
床に体が叩きつけられ、その事実を更に強く実感する。
やばい... もう動けない...
だが目を開けると、全身から霧が吹き出すように発散していくように見える奴の頭には、ナイフが刺さっていた。それだけは見えた。だが、俺の持っていたナイフはただの一本のみで、それは今俺が吹っ飛ばされている間も、今も、手に持っている。届かなかったからだ。
じゃあ、誰がどうやってナイフを刺したのか。
「敵を完全に倒すまでは油断をしてはいけない。本当にそのとおりだと思います。これで、スズに土産話が出来ますね」
「なぜ私の体が... 発散... これが... 勇者の...?」
ああ、もうだめだ。眠い。これあれだ、漫画とかだと骨が折れているやつ。でもリリー... 動くのが、遅いぞ...
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