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序章
第9話
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前回のあらすじ、姫様と戦う。
「スズは能力なしで、武器は自由です。どうせ意味がないので」
「いや、ですが勇者様と私では...」
いくら俺が前世で何のスポーツの類いもやっていなかったからといって、女子と男子では筋肉のつきかたに差がありすぎる。
タイランやリリーは戦う事に特化しすぎているが、スズはお姫様だ。どう考えても怪我をさせてしまう...
は!?まさかこれは... リリーが俺とスズのフラグを建てさせようとしている!?昨日の料理の件も兼ねての俺へのお詫びなのか!?
下手すぎんだろリリーさんよ... 恐らくリリーは能力で心が読めるから、昨日少し出来た、俺とスズとの距離を縮めさせようとしているのか。
だが、ありがとうリリー。その気持ち、しかと受け取ったぞ。
「いや、俺も戦い方というものをよくわかっていないんだ。スズとの模擬戦からきっと得られるものがあると思う。頼めないか?」
「はあ... この男は本当に... 」
ああ、すまないリリー。気づくのが遅いってか。大丈夫だ、意図は汲み取ったぞ。
「勇者様がそうおっしゃるなら...」
スズも納得してくれたみたいだし、優しく、優しく勝たせてもらおう。
「ありがとうございますスズ。はい、それじゃあ二人共、用意はいいですか?」
今まで荷台の影にいたタイランがその言葉と同時にひょこっと体を出し、荷台に腰掛ける。
頷いたスズは目を瞑って杖を地面に置き、息をゆっくりと吐き、両腕をだらりと垂らした。なんだかその一連の動作は、何度も繰り返したように少し手慣れているようで...
「スズが戦うのなんて久しぶりだよなあ。昔はよくボコボコにされてたぜ」
は?それって...
「ちょ、ちょっとまったそれって!!」
「始めです」
前世でスポーツの類いはやっていなかったと言ったが、テレビでやってるスポーツはたまにCMの合間に見ていた。
中でもプロレスの試合は一番記憶に残っている。大声で叫んだり、凶器を振り回したり、血を流したり。選手同士の威圧のようなものは、きっと生で観戦していたら強く感じられるんだろうなと考えたことがある。
などと、のんきに前世の話を挟んでいるが、現在、俺は動けずにいた。
昨日今日のオドオドしたスズは演技だったのではないか、と思うほど、彼女の姿は堂々としていた。左足を軸にして立ち、両手と右足からは力が抜けている。
片や俺は、見様見真似のボクシングの構え。端から見れば、幼気な少女を一方的に蹂躙する野郎だ。
「それでは勇者様、行きますね」
目を開けたスズは全身を脱力させたままこちらに向かってくる。その目は先ほどまでのものとは違い、しっかり俺の一挙一動を監視しているかのように鋭かった。
あ、待ってください。動けません。タンマタンマタンマタンマ!!
ビュンッ...
ゆっくりと歩いてきたスズは、俺の間合い一歩手前のところで消えた。
残ったのは動く白い布... スズの魔導着のスカートだった。
「ヒィッ... 」
俺の顔を狙った派手な回し蹴り、そこから俺を救ったのは論理的な思考でも、純粋な勘でもなく... 恐怖と風圧だった。
重心を崩し、俺の体は後ろに身じろぎ、倒れようとする。スズの靴は、俺の額を深く掠めるだけに留まるが...
「ぐはっ... !!!」
落下するだけだった俺の体の、腹を捉えるように、スズの拳がめり込む。
「っは...っはあああああ!!」
息が...出来ない...
「止めてくださいスズッ!!」
リリーの声に反応して、腹を抱え込んで倒れる俺が見上げると、数センチ程先にスズの拳があった。
よ、容赦ねえ...
顔こそ怖くて見えないが、スズの拳がピクっと震えると、我に返ったかのようにオドオドし始める。
「も、申し訳ありません勇者様!すぐに絆創膏を!」
徐々に呼吸が戻り始めたので、座るようにして起き上がる。
「いや、いいんだ」
ああ、俺って弱いんだな。
おでこの辺りに手を当ててくるスズの手を振り払い、荷台へと、リリーの元へと、腹をおさえながら歩き出す。
ハーレムなんて、異世界最強物語なんて、最初からなかったんだ。
能力が使えなく、ぶっちぎりで俺が一番弱い。前世の平和な世界でぬくぬく育っていた俺が、魔物あふれるこの世界に召喚されたんだから、それは必然ということ。
受け入れるしかない。曲がりなりにも、最弱だとしても、一応は勇者なのだから。
「リリー!戦い方を教えてくれ!!」
直角に体を勢いよく折り曲げ、懇願する。やっていくしかない。魔王を倒す為なら、一から。
「いえ、あなたには精一杯逃げてもらいます」
「え?」
はあ?
こうして、最強の能力を授かったはずの俺は、一生懸命に魔物から逃げる事を要求されるのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
スズ描いてみた!
「スズは能力なしで、武器は自由です。どうせ意味がないので」
「いや、ですが勇者様と私では...」
いくら俺が前世で何のスポーツの類いもやっていなかったからといって、女子と男子では筋肉のつきかたに差がありすぎる。
タイランやリリーは戦う事に特化しすぎているが、スズはお姫様だ。どう考えても怪我をさせてしまう...
は!?まさかこれは... リリーが俺とスズのフラグを建てさせようとしている!?昨日の料理の件も兼ねての俺へのお詫びなのか!?
下手すぎんだろリリーさんよ... 恐らくリリーは能力で心が読めるから、昨日少し出来た、俺とスズとの距離を縮めさせようとしているのか。
だが、ありがとうリリー。その気持ち、しかと受け取ったぞ。
「いや、俺も戦い方というものをよくわかっていないんだ。スズとの模擬戦からきっと得られるものがあると思う。頼めないか?」
「はあ... この男は本当に... 」
ああ、すまないリリー。気づくのが遅いってか。大丈夫だ、意図は汲み取ったぞ。
「勇者様がそうおっしゃるなら...」
スズも納得してくれたみたいだし、優しく、優しく勝たせてもらおう。
「ありがとうございますスズ。はい、それじゃあ二人共、用意はいいですか?」
今まで荷台の影にいたタイランがその言葉と同時にひょこっと体を出し、荷台に腰掛ける。
頷いたスズは目を瞑って杖を地面に置き、息をゆっくりと吐き、両腕をだらりと垂らした。なんだかその一連の動作は、何度も繰り返したように少し手慣れているようで...
「スズが戦うのなんて久しぶりだよなあ。昔はよくボコボコにされてたぜ」
は?それって...
「ちょ、ちょっとまったそれって!!」
「始めです」
前世でスポーツの類いはやっていなかったと言ったが、テレビでやってるスポーツはたまにCMの合間に見ていた。
中でもプロレスの試合は一番記憶に残っている。大声で叫んだり、凶器を振り回したり、血を流したり。選手同士の威圧のようなものは、きっと生で観戦していたら強く感じられるんだろうなと考えたことがある。
などと、のんきに前世の話を挟んでいるが、現在、俺は動けずにいた。
昨日今日のオドオドしたスズは演技だったのではないか、と思うほど、彼女の姿は堂々としていた。左足を軸にして立ち、両手と右足からは力が抜けている。
片や俺は、見様見真似のボクシングの構え。端から見れば、幼気な少女を一方的に蹂躙する野郎だ。
「それでは勇者様、行きますね」
目を開けたスズは全身を脱力させたままこちらに向かってくる。その目は先ほどまでのものとは違い、しっかり俺の一挙一動を監視しているかのように鋭かった。
あ、待ってください。動けません。タンマタンマタンマタンマ!!
ビュンッ...
ゆっくりと歩いてきたスズは、俺の間合い一歩手前のところで消えた。
残ったのは動く白い布... スズの魔導着のスカートだった。
「ヒィッ... 」
俺の顔を狙った派手な回し蹴り、そこから俺を救ったのは論理的な思考でも、純粋な勘でもなく... 恐怖と風圧だった。
重心を崩し、俺の体は後ろに身じろぎ、倒れようとする。スズの靴は、俺の額を深く掠めるだけに留まるが...
「ぐはっ... !!!」
落下するだけだった俺の体の、腹を捉えるように、スズの拳がめり込む。
「っは...っはあああああ!!」
息が...出来ない...
「止めてくださいスズッ!!」
リリーの声に反応して、腹を抱え込んで倒れる俺が見上げると、数センチ程先にスズの拳があった。
よ、容赦ねえ...
顔こそ怖くて見えないが、スズの拳がピクっと震えると、我に返ったかのようにオドオドし始める。
「も、申し訳ありません勇者様!すぐに絆創膏を!」
徐々に呼吸が戻り始めたので、座るようにして起き上がる。
「いや、いいんだ」
ああ、俺って弱いんだな。
おでこの辺りに手を当ててくるスズの手を振り払い、荷台へと、リリーの元へと、腹をおさえながら歩き出す。
ハーレムなんて、異世界最強物語なんて、最初からなかったんだ。
能力が使えなく、ぶっちぎりで俺が一番弱い。前世の平和な世界でぬくぬく育っていた俺が、魔物あふれるこの世界に召喚されたんだから、それは必然ということ。
受け入れるしかない。曲がりなりにも、最弱だとしても、一応は勇者なのだから。
「リリー!戦い方を教えてくれ!!」
直角に体を勢いよく折り曲げ、懇願する。やっていくしかない。魔王を倒す為なら、一から。
「いえ、あなたには精一杯逃げてもらいます」
「え?」
はあ?
こうして、最強の能力を授かったはずの俺は、一生懸命に魔物から逃げる事を要求されるのだった。
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スズ描いてみた!
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