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序章
第4話
しおりを挟む前回のあらすじ、おっさんと対面。
もちろん俺は知っている。ここに突っ立っているのはただのおっさんではない、謁見の間らしきところで玉座らしきところに座っていたえらいおっさん、王様だ。
ここで俺がもしも実力を示していたのなら、もしも俺がリリーのナイフを塵にして「おれなんかやっちゃいました?」となっていたのなら、俺はここで「なんだこのおっさん?随分偉そうだな?」と言う事が出来る。
ただこの状況に置いては、俺がショック死したからには、少なくともボス的存在を倒すまでそれはお預けだ...
「大丈夫ですよ、この通り快調です。お気遣いいただきありがとうございます」
どうだ?ワントーン高い声に笑顔、もちろん一歩引いて感謝まで言うぜ。
「ん?スズもいたのか。ちょうどいい、タイランにも伝えておいてくれ、明日の昼、もう一度謁見の間で正式に勇者パーティーの成立を発表すると」
な、なんだこのおっさん。随分偉そうだな?俺に一目もくれねえだなんて... 舐めてやがる、俺が異世界ライフ五分足らずで中断したからって舐めてるなこのおっさん... 一泡噴かせてやろうか。
笑顔を保ちながら、するりとおっさんの視線、おっさんとスズの間に入り...
「いやあ、ベッドがとてもきれ... 」
目にもの言わせたる、と目に俺を写そうとするが、おっさんは華麗にリリーの方へ視線を移す。
負けじと再度おっさんの視線の先に移動しながら...
「スズさんにも看病してもらって... 」
また逸らされる。今度は、わざとらしく首を百八十度度回転させ、窓の外を見ていた。
この加齢臭源が... 人が下手に出てりゃいい気になりやがって...
なんかリリーも真顔で傍観してるし、スズもオドオドしている。あからさますぎるだろこの老いぼれ。
こうなりゃ無理やり振り向かせてやる、と両手をおっさんの顔に伸ばす。
触りたくないし、俺は一度ショック死していて弱く映っているが、一応勇者は勇者。俺にだってちっぽけなプライドがある、おっさん如きが踏みにじっていいものでは断じてない。
が、リリーという俺の目に追えない身体能力の持ち主の前に、それがかなうはずがなく... 気づけば後ろから両腕を掴まれていた。
「お、おい、はな... 」
「ぎゃあああああああああっっ!!!」
だが取り押さえられるのが少し遅かったようで... 俺の手は少しおっさんの頬に触れていた。そして叫び出すおっさん...
「ぐあああああああああ!お、お、男がああ!!男にいいいぃ!さわ、さわさわ触られ、られええええぇたあああ!!」
唖然とする俺、ドア付近まで来て止まったスズ、死んだような目を浮かべるリリー、そして叫ぶおっさん。
長い袖をブンブンと振り回し、被っていた金の王冠は転げ落ちる。地たんだを踏み、壁に腕がぶつかり、ドタドタという表現がよく似合う状況だった。
高価なはずの服で、ゴシゴシと肌が破れるんじゃないかってくらいの勢いでこすり始めた。
ここが地獄ですか?いいえ異世界です。
「うあああああああああ!!い、いやだああああ!!」
そこからは、おっさん以外誰一人口を利かなかった。断末魔にも似た叫び声をバックに、首根っこを掴まれた俺は引きずられ、スズが後を付いて来る。
誰一人として目に生気は宿っていない。機能はしているはずなのに、目の前にある物体を認識できるはずなのに、そこにはまるで何も映っていないようだった。これではシュレディンガーさんの猫も殺せない。
気付くと目の前に広がるのは青い空。そして、木々が両脇に立つ幅のただっ広いベージュの石造りの道。城の外だった。
スズはタイランを呼び出しているようで、俺はリリーと二人きりでいた。
あんな事があった後でお互いに何かを話し合うわけでもなく、ただジーッと遠くを眺める。
やべえなんか話さないと。
「なんだあのおっさん... 随分騒がしかったな」
よし自然な流れ、セリフを使い回すことでSDGsにも配慮している。
「ただの馬鹿です... 重度の女好きで、お忍びで風俗通いが趣味です。反対に男とは一切関わりません。一切です」
「拒否反応が起こると... 」
「本人が言うにはアレルギー反応だそうです」
なんだあのおっさん。本当に偉そうにしてるだけじゃねえか。
「昔からああでした。スズには笑顔で話しかけますが、スズのお兄さんには見向きもしません」
「よくあんなのに王が務まるな」
「側近が優秀なんですよ」
あれか、優秀女秘書みたいな。ピチピチの。
「でもあれはクソババアです」
夢を壊してくれるな、女だったら見境なしかよ。
「... なんかお前、元盗賊のくせに随分あのおっさんと関わりがあるみたいだな」
「そ、それは... 」
とリリーが続けようとするが、それはむさ苦しく、空気を分かりやすく震わせる声に遮られ...
「よう勇者もどき!!元気してるか!」
初日にリリーにボコボコにされたタイランさんのご登場です。あの時のいざこざはどこへやら、俺とリリーの肩に太い腕を回してくる。
装甲のせいでたわわが攻撃してこないので、そそり立つべきものはそそり立ちませんでした。
… そしてなんだか険しい表情を浮かべるリリーさん、ここの二人には何か壁があると俺の勘が囁いている。片方は壁だから当たり前なんだけど...
「ったあああああぁっっ!!」
「うははは!すねは痛いよなあ!スズは容赦ねえだろ」
涙目でスズを睨みつけると、なんでもないと言った顔で口を開く。
「タイランはこういうやつです、脳筋ですから」
そこじゃねえよ!お前に浴びせられた暴力のことだよ!
「あ!?スズに言われたから大人しくしてやってるだけだ!それに、このへっぽこ勇者はお前にボコられてるからチャラなんだ!... それにしても、いくらリリーのナイフが早いからって、ションベン漏らして気絶するとはなあ。あのときのお前、最高だったよ」
俺ションベン漏らしてたのかよ、そりゃ死んでるからな。ションベンの何立方センチメートルかは漏らすだろ。
あ、スズが少し顔を赤らめてる。かわいい...
「いってええええっっ!!」
「ほら、あなたのスネが潰れる前に行きますよ」
潰してんのはお前なんだよ、なんでこうも蹴られなくちゃいけねえんだ!
「がはははっ!いいこと教えてやろうか、リリーの前では変な感情は出せねえんだよ!!」
「なにネタばらししてるんですか、タイミングを考えてください」
あ、もしかして心を読む能力だったりするのか?もしや俺を除いて対人戦最強か?
「まあ、今度教えます。今はとっとと動きますよ」
「あ、ぶ、物資はどうしましょう... 」
「街で買いますよ、そこの男に持たせれば負担も少ないですし」
荷物持ちの勇者なんていねえだろうが!!こういうのは馬にでも引かせれば良いんだよ!
「いっでええええっ!!」
スネを再度蹴り歩き出すリリー。遠くに見える城門まで徒歩で移動を始める。笑い続けるタイランと、苦笑いをするスズを引き連れて。
パーティー仲間に暴力振るわれて、けなされて、笑われて、勇者っぽいセリフも行動もまだ一つも出来ていない。
「とっとと歩いてください、日が暮れてしまいます」
もしかして... この先ずっとこんな感じ?
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