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1.令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
1.
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私はメリル=グリーデン。アジュール王国のグリーデン侯爵家の長女だ。
「お嬢様、お夕食です」
いつものようにメイドが部屋に食事を持ってきてくれた。――私はいつも自室で1人で食事を食べる。
私には両親と妹――アネッサがいるけれど――他の家族は皆、食堂で食事をしている。だけど私は――部屋で1人だ。
「ありがとう。わぁ、今日は豪華ね」
メイドはお皿の上の銀色の蓋を開けてくれた。中には大きな焼きたての仔牛のローストが入っている。思わずお腹が鳴った。
「それでは、私は失礼します」
だけどメイドはそんな私に何を言うわけでもなく、それだけ言って扉を閉めて出て行ってしまう。
素っ気ないなぁ。
だけどしょうがない。この屋敷の人はみんな、私を気味悪がっているから。
私は料理に顔を突っ込むようにして匂いを嗅ぐと、空中に向かって話しかけた。
「良い匂いでしょ」
――正確には、私は部屋に1人だけど――1人じゃない。
私の呼びかけに応じるように、私の周りにキラキラした光の粒がいくつも舞って、耳元で囁くような声がした。
“良い匂いなの? これ?”
“よくわかんない。肉が焼けた匂いが良い匂いなんて人間て可笑しいね”
笑い声が聞こえて私はむっとする。
「いい匂いでしょ。わからないならいいけど」
“メリル、良い匂いっていうのはお花の匂いとかよ”
また、違う声。
これは私にだけ聞こえる声、私にだけ見える存在。私はこの賑やかに飛び回って話しかけてくる光を「妖精」と呼んでいる。
――そして、この「妖精」たちが私が部屋で1人で食事をしている理由でもある。
私は小さい頃から私以外の誰も見ることができない「妖精」たちが見えた。
彼らは物心つく前からごく普通に私の周りにいて、いつも賑やかに話しかけてきた。
私は小さかった頃は、他の人には彼らが見えないなんて思わなくて、家族や他の誰かがいても気にすることなく彼らと会話をしていた。
――傍から見たら、誰もいない空中に話しかけている奇妙な子どもだっただろう。
『メリル、一体何と話しているの?』
『妖精だよ』
『何もいないじゃないか』
お母様とお父様は私を怖がって『頭がおかしい』と言った。そして、『妹に近づくな』と――。
そして――ある日、私は『この子は悪魔に憑かれている』教会に連れて行かれた。
そこでは――思い出すのも嫌だけど――司祭様から頭から水をかけられたり、杖で叩かれたりした。――そこで、私はやってしまったのだ。
頭から水を被ってびしょびしょで泣いている私の周りに妖精が集まってきて、今までに聞いたことがないくらいうるさく騒ぎ出した。
“メリルをこんなにいじめるなんて、許せない!”
“ひどいやつだ!”
“あいつも泣かせてやろう!”
“やっつけてやろう!”
キラキラした無数の光が私の周りを舞ってわめきたてた。――そして、地響きがした。
私が押し込められた物置みたいな部屋を除いて、教会は倒壊――私に水をかけた司祭様は下敷きになって大怪我を負った。
表向きは地震で古くなった教会が崩れただけ――とされたけど、私は、それは妖精たちがやったことだとわかった。
彼らは――私の味方だ。だけど――とても危ないものだと、私は気づいた。
両親は私のことを余計に怖がるようになって、私に「不自由はさせないから、お前は屋敷の中で過ごすように」と言った。
私は――今は人前では妖精たちとは話さないようにしている。
あんまり相手をしないと、彼らは拗ねてしまって――髪の毛を引っ張ってきたりするものだから、人がいないところでは話してあげるけど。
私の今の望みは、令嬢として普通の生活に戻ること。
教会での一件以来、私は屋敷の中でずっと大人しく過ごしている。
そのうち、お父様やお母さまや妹が――一緒に食卓を囲みましょうと言ってくれることを待ち望んで。
「お嬢様、お夕食です」
いつものようにメイドが部屋に食事を持ってきてくれた。――私はいつも自室で1人で食事を食べる。
私には両親と妹――アネッサがいるけれど――他の家族は皆、食堂で食事をしている。だけど私は――部屋で1人だ。
「ありがとう。わぁ、今日は豪華ね」
メイドはお皿の上の銀色の蓋を開けてくれた。中には大きな焼きたての仔牛のローストが入っている。思わずお腹が鳴った。
「それでは、私は失礼します」
だけどメイドはそんな私に何を言うわけでもなく、それだけ言って扉を閉めて出て行ってしまう。
素っ気ないなぁ。
だけどしょうがない。この屋敷の人はみんな、私を気味悪がっているから。
私は料理に顔を突っ込むようにして匂いを嗅ぐと、空中に向かって話しかけた。
「良い匂いでしょ」
――正確には、私は部屋に1人だけど――1人じゃない。
私の呼びかけに応じるように、私の周りにキラキラした光の粒がいくつも舞って、耳元で囁くような声がした。
“良い匂いなの? これ?”
“よくわかんない。肉が焼けた匂いが良い匂いなんて人間て可笑しいね”
笑い声が聞こえて私はむっとする。
「いい匂いでしょ。わからないならいいけど」
“メリル、良い匂いっていうのはお花の匂いとかよ”
また、違う声。
これは私にだけ聞こえる声、私にだけ見える存在。私はこの賑やかに飛び回って話しかけてくる光を「妖精」と呼んでいる。
――そして、この「妖精」たちが私が部屋で1人で食事をしている理由でもある。
私は小さい頃から私以外の誰も見ることができない「妖精」たちが見えた。
彼らは物心つく前からごく普通に私の周りにいて、いつも賑やかに話しかけてきた。
私は小さかった頃は、他の人には彼らが見えないなんて思わなくて、家族や他の誰かがいても気にすることなく彼らと会話をしていた。
――傍から見たら、誰もいない空中に話しかけている奇妙な子どもだっただろう。
『メリル、一体何と話しているの?』
『妖精だよ』
『何もいないじゃないか』
お母様とお父様は私を怖がって『頭がおかしい』と言った。そして、『妹に近づくな』と――。
そして――ある日、私は『この子は悪魔に憑かれている』教会に連れて行かれた。
そこでは――思い出すのも嫌だけど――司祭様から頭から水をかけられたり、杖で叩かれたりした。――そこで、私はやってしまったのだ。
頭から水を被ってびしょびしょで泣いている私の周りに妖精が集まってきて、今までに聞いたことがないくらいうるさく騒ぎ出した。
“メリルをこんなにいじめるなんて、許せない!”
“ひどいやつだ!”
“あいつも泣かせてやろう!”
“やっつけてやろう!”
キラキラした無数の光が私の周りを舞ってわめきたてた。――そして、地響きがした。
私が押し込められた物置みたいな部屋を除いて、教会は倒壊――私に水をかけた司祭様は下敷きになって大怪我を負った。
表向きは地震で古くなった教会が崩れただけ――とされたけど、私は、それは妖精たちがやったことだとわかった。
彼らは――私の味方だ。だけど――とても危ないものだと、私は気づいた。
両親は私のことを余計に怖がるようになって、私に「不自由はさせないから、お前は屋敷の中で過ごすように」と言った。
私は――今は人前では妖精たちとは話さないようにしている。
あんまり相手をしないと、彼らは拗ねてしまって――髪の毛を引っ張ってきたりするものだから、人がいないところでは話してあげるけど。
私の今の望みは、令嬢として普通の生活に戻ること。
教会での一件以来、私は屋敷の中でずっと大人しく過ごしている。
そのうち、お父様やお母さまや妹が――一緒に食卓を囲みましょうと言ってくれることを待ち望んで。
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