鷹の翼

那月

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最初の酒は甘かった

8P

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 このクマ男を戦闘不能にすると言ってのけた時にはありえないと思ったが。なるほど、情報屋ならではの言葉攻めか。

「さ、これでちぃのおつとめは終わりー。あとは頑張ってねぇ、桜鬼。あ、さすがにこんな大男、ちぃは一寸も引きずれないからこのまま置いとくわよー」

 邪魔だな、気絶した哀れな大男!狙ったのか何なのか、ちょうど部屋の真ん中ぐらいだし。

 桜鬼も原田も、次々進んでいく展開に置いてきぼり状態。ポカンと開いた口が塞がらずに口の中がカラカラ。

 急に千歳がパンパンッと手を叩いたので2人とも、ビクンッ!と飛び上がって我に返る。ゆっくり歩み寄ってくる彼女に、桜鬼は大混乱。

 彼女の登場から今まで、全てが想像外の出来事。いや、こんなこと誰が想像できるかってくらいだが。

 せっかく向き合って正々堂々と戦おうとしたのに、あんな一瞬で倒すなんて。それと、あのまま2対1なら本気になれば確実に勝ち目はなかった。差し違えることもできなかっただろう。

 何か声をかけようとして、大混乱中の頭で必死に考えた結果。桜鬼は「あ、あ、ありがとう、ございます」と力のない、情けない声を絞るので精一杯だった。

「…………素直ね。あなたはもっと自分に貪欲に、我が侭になりなさい。そうね、桜樹のように」

 そう言って、千歳は大胆にも桜鬼と原田の間を歩いて部屋から出て行った。狐モドキ達十数匹もついていき、静寂が訪れる。

 桜鬼には背を向けていたから見えなかったかもしれない、けれど原田は見た。千歳が、今までにないほど柔らかで穏やかな笑みを浮かべていたのを。

 突然やってきて、勝手に永倉を倒して、勝手に去っていった千歳。

 文字通り残された桜鬼と原田は彼女が去っていった方を見つめていた目を永倉に、そしてお互いへと向ける。

 2人は口から泡を吹き白目をむいて気絶している永倉に目を向けて思った。冷たい目で「かわいそう」と。きっと色んな意味が込められているに違いないな。

 原田の明るい黄緑色の瞳に、うつむく桜鬼の姿が映る。深呼吸して、前髪を掻き上げながら顔を上げた彼は口の端を釣り上げて笑う。

「なんだかよくわからないけどさ、僕は千歳さんが僕達のために気を利かせてくれたんだと思うよ。だから、僕は僕らしく戦うってアイツに誓った」

 赤い2つの炎の勢いが増したような気がした。桜樹の信念を貫く強さと、思い切りと諦めない心が桜鬼を強くさせる。

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