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最初の酒は甘かった
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しおりを挟む「新八さんっ!!」
やっと復活したらしい原田が叫んだのと、永倉の刀がザンッ!と突き刺さったのはほぼ同時。桜鬼の呼吸が止まった。
「はっはっはっ……はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ……」
永倉は、桜鬼の無防備な喉に刀を突き刺すことができなかった。そのすぐ横の地面に深々と埋もれた刀が、握る手が震えている。
死を覚悟しギュッと閉じられていた桜鬼の赤い瞳がゆっくり開かれると、そこにある永倉の顔を映す。映ったのは、永倉新八という1人の人間の姿。
目を見開き、驚きを隠せない表情。荒い呼吸と震える手が、永倉の本当を桜鬼に教える。
背後で原田がホッと息を吐いた気がした。口元を拭いながら駆け寄り、永倉の様子をうかがう。そして気づいた。彼がなぜ、とどめを刺せなかったのかを。
「あんた、こんな時にあれを飲んだのかよ?」
桜鬼の口元を指さす原田は眉間にシワを寄せ、永倉の腕を引いて一旦下がらせる。早く終わらせる絶好の機会だったのに。
桜鬼は新選組が来る前に何か飲んでいたのか?まさか酒か?いや、酒に愛され酒を愛しすぎるアホな原田ではないのだから違うだろう。
ならヤバい薬か何かか?桜鬼でなくとも桜樹なら、あり得る。2人が小紅のおかげで統合できたとはいえ、桜樹の黒い部分はやんわりと残っているのだから。
だから桜鬼は、微笑んだ。2人に目を向け「だって最後だから」と、起き上がり少し切れた喉に手を当てる。
深くゆっくり息を吸い呼吸を整え、鉤爪を構えながらゆっくり息を吐く。イタズラっぽく笑う彼は「そんなに匂うかな?」と腰を落とすと地面を蹴った。
すぐに飛び出した永倉が華麗な刀さばきで鉤爪を絡め取り、身動きを封じている間に原田が追撃を決める。
そのはずだった。連携は完璧だった。永倉の刀が鉤爪2つを封じたまではいい。その直後、そうなることを予測していた桜鬼は両腕を思い切り振り下ろしたのだ。
背は高いが割と細身の体のどこにそんな力が秘められていたのか。クマのような体格の永倉は刀を手放せずに引き込まれ、前のめりに崩れる。
すでに槍を振り下ろしていた原田に桜鬼は、背後も見ずに後ろ回し蹴りをお見舞いする。
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