鷹の翼

那月

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イヌとサル

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「ゴプッ!ゴホッゴホッ!はぁっはぁっ、うっ……甘いわ、沖田。わかっとる、やろ?殺すか、殺されるかなんや。これでしまい、なんや。それに沖田、あんたはまだ俺っちを殺さんでえぇように流そうとしとる」

「へぇ、僕のことをわかったようなことを言っちゃってさ。本当は殺されたいんじゃない?」

「ドアホウ。顔を合わせたらすぐに喧嘩してきた仲や、嫌でもあんたの考えとることがわかるわ。沖田も俺っちのことがわかる、そうやろ?目ぇ背けなや。せやないと俺っち――」

 沖田は雪の血で顔を赤く染めても物怖じしなかった。唾を吐かれて嫌そうな顔をしたが。だがまっすぐな彼女の茶色い瞳を覗いたその時、ビクッと沖田の体が震えた。

 茶色い2つの瞳の奥に、自分の本当の心を見た。体は向き合っているのに、目を閉じ顔を背けている情けない自分がいた。

 その隙を見逃さなかった雪の手が沖田の腰に伸びたのに気づいた時には、もう遅い。

「がっ、あぁぁぁ……っ!!」

 ビシャッ。今度は雪の顔が赤く染まる。驚きと痛みで大きく開かれた口から放たれた血が降り注ぎ、雪はペロッとその血を舐める。

「不味いわ。殺される気はないんや。俺っち、約束しとるから。“子供は5人。幸せな家庭を築いて最期のその時まで共にある”って、な……」

 その約束は愛しい夫と交わした約束。一瞬だけフッと穏やかで優しい表情になった雪は、幸せそうだった。

 雪は沖田の腰にある脇差に手をかけ、抜きながら腹部から胸、胸から肩にかけて大きく斬りつけた。心臓にまでは達していないが致命的。

 今までずっと素手で戦ってきた雪が、まさか武器を手に取るとは思ってみもみなかっただろう。

 あえて言うなら、目の前に使えそうな武器があったから。上手く使いこなせない、初めて手にする武器でも、雪にとっては形勢逆転のための最強武器。

 しかし、雪も沖田を侮っていた。身を引くと思っていた。なのに、彼は雪の腹部に突き刺した刀を握り締めたまま耐えてみせたのだ。

 彼は、沖田総司は新選組を背負っているサムライ。新選組一番隊の隊長、沖田総司。そして、1人の人間。

 雪の命を奪ってしまえばもう2度と、彼女をからかって楽しむことはできない。昔からの付き合いなので生き甲斐にまでなっていたのに。

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