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新選組
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しおりを挟む「…………っくしょい!ゴホッゴホッ、っくしょい!あぁー、っくしょい!」
両手にクナイを1本ずつ握り締めて、何を急に言い出すのやら。とんでもない告白に、見ろ、山崎は完全に何も聞こえなかったことにしている。
見た目と場の空気とセリフが一致しない。全く。治まらない咳とくしゃみと涙と鼻水にイライラしてきているのに、山崎は右手で小太刀を握り、左手で顔を拭いながらズビズビ言いながら咳き込みながら睨みつけながらゆっくり、1歩後退。
山崎は今、鳶が何を考えているのかがわからない。いや、いつもわからない。むしろわかったことなんて1度もないが。
ついさっきの告白も聞こえなかったことにできなくて、考えないようにしようとすればするほど、意識してしまってついには赤面。
かわいそうに。頭の上にいくつもの疑問符を浮かべて大混乱中だ。もはや戦闘どころではない、か?
「山崎丞。俺はお前がす――」
「2度も言わさねぇ、しっかり聞こえちまってるんすよ!?あれで聞こえなかったと思ったのかっ!?」
「何も返事、ない」
「色々わけがわからな過ぎて頭ん中が真っ白になったんすよ。何を企んでいるのか知らねぇっすけど、俺様はてめぇのことが大っっっ嫌いだからっ!」
山崎、さっきから吠えまくっているがまるで高遠だな。対する鳶は口を閉ざし、しかしその顔には「知っている」と書いている。
その反応にまた山崎が吠えたのは割愛。吠えすぎて肩の傷口から血が吹き出してしまったのも割愛。強いて言うなら、鳶が1歩また1歩と山崎との距離を詰める。
「俺は天才ではない。だが……そう、言われ続けた。ゆえに何度も命を、狙われた。弟子入り、志願者もいたが断った。しつこい、人間……忍の俺はもう……いないのに」
ゆっくりと歩みながら鳶は、ポツリポツリと言葉を落とす。こんなにしゃべるのは最後だからか。
滅多に、しかもこんなに長くしゃべらないので足を止め「ふぅ」と息を吐いた。山崎を見つめ、息を吸って吐いて、また踏み出す。
「相手をしないと諦めて姿を消す。なのに、山崎……だけは違った。私闘を禁じられる、破れば、切腹の新選組なのに。何度も、挑んできた。………………勝てない。と、わかっているのに」
「おい、一言多いっすよ」
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