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零落
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しおりを挟む「丸、俺達はもう忍ではない。心を持たぬ道具……から、人間にしてくれた。夜鷹様、と、頭領に……感謝しないと、な……」
「鳶、寝たらあかんでっ!」
「ふぐぅっ!!?ね、寝てない…………まだ」
猫丸を抱き上げている雪に両腕を回し、包み込むようにそっと抱きしめる鳶。目を閉じ、温もりを感じていると雪の容赦ない肘鉄がめり込んだ。
危うく睡魔に負けるところだったな。鳶の「寝てない」という嘘に「ほんまかぁ?」とジト目を向ける雪から、目を反らす。
その様子に、泣いていた猫丸が「ぷっ、あははっ」と子供らしく笑う。
「くくっ、あはははっ!大事な決戦前やのに、こんなに楽しゅうて面白うてえぇんやろうか。こんな時間がずーぅっと続けばえぇのに」
「んなの無理だろーが」
つられて笑う雪に痛い言葉が突き刺さった。猫丸でも鳶でもない。
いつからそこにいたのだろう?声の主は大きな木の影から姿を現し、大きな溜め息を吐いた。
「うわ、そんな怖ぇ顔すんなよな鳶。俺様だって楽しい日が続けばいい、頭領を守り続けたいって思うぜ。でもよ、思うだけで口に出すな。頭領は全てを終わらせることを選んだんだ。俺様達がそんなこと言えば後ろめたくなっちまうだろうが」
黒鷹を守ると誓った男、高遠が戻ってきた。あぁ、やっぱり戻ってきたのか。寂しいんだな。
「それに、頭領はすげぇ地獄耳なんだぜ」
一言多いな。せっかく高遠らしくない、格好良いことを言っていたのに。見ろ、猫丸が呆れ顔だ。
「もしも俺っち達が逃げたら。もしも新選組に勝ったら。全滅したら。生者は、死者は、どうなるんやろうな?未来なんか誰にもわからへんけど、今は不思議と怖くあらへん」
「死ぬの、怖い。でも、自分のために、頭領や夜鷹様や皆のために一生懸命戦って命を落としたのならいいやって思う」
「皆、悔いは残さぬ。高遠……お前は、どうだ?お前にだって、考え……ある、だろう?」
雪のくせに、猫丸のくせに一丁前のことを言いやがる。とでも言いたそうな目で、けれど嬉しそうにしている高遠は鳶に問われ口を閉ざす。
皆、それぞれこの決戦にかける想いがある。きっとこの決戦が、鷹の翼の最後の仕事になるのだから。
いつも乱暴で馬鹿でひたすら力を追い求める高遠でも思い残したことがある。だから、悔いが残らないようにとある場所に行っていた。
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