鷹の翼

那月

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零落

9P

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「あたたかいのにゃー」

 けれどやっと、追い求めていたものを手に入れた。本当の両親が今どこで何をしていようと、生きていようと死んでいようと関係ない。

 猫丸は今、自分が認める家族と共にある。両親に捨てられて、山猫なんかに育てられて不幸だとは思わない。

 今が幸せだからそれでいい。鳶と雪の幸せそうな様子につい、猫丸の頬もほころぶ。

 と、思い出したかのように雪が鳶に白い猫を預けるとしゃがんで猫丸に手を伸ばした。フワッと体が浮いたかと思えばそのまま、一瞬のうちに彼の小さな体が雪の腕の中に納まる。

 抱っこされている。興奮のあまり、勢い余ってといったところか。急に目線が高くなり、ついでに高い高いまでされてはさすがに慌てふためく。

「ま、丸は小さい子供じゃないのにゃー!下ろしてにゃーっ」

「や、だって抱っこしてほしそうな顔してはったんやもん。ほんまに下ろしてえぇの?」

 猫丸のすぐ目の前に雪の無邪気な笑顔。思いっきり子供扱いしているが、猫丸は返す言葉を探して視線を反らした。

 反らした先に、今度は鳶の顔が。白い猫が鳶の腕の中で暴れている。抱き方が下手くそか。

「………………もう、ちょっとだけ…………っ、ぎゅってしてくれたら……嬉しいの、にゃー」

 やがて猫丸は雪の首に両腕を回し、顔を隠すように抱き着いた。肩が震えている。雪の貧相な胸がジワリジワリと熱くなってきた。

 猫丸は子供だ。強がってはいても、母親が恋しい。雪に、顔も覚えていない母親を重ねてしまう。愛を、温もりを求めてしまう。

 それに、もうすぐ新選組との決戦だ。正真正銘の命がけの戦いが恐くないわけがない。

 無意識に心の奥底に沈めていた想いが、溢れた。雪の胸で声をあげて泣く猫丸に、猫達が雪の足元に集まる。良い家族を持ったじゃないか。

 雪は母親のように「大丈夫や、全部吐き出してしまい」と優しく囁き、小さな震える背中を撫でる。

 子供だから猫丸はまだ背が低い。そんな彼を抱き上げる雪も、同い年の女性より背が低い。つまり2人の身長差は頭半分ほど。

 それでも雪には怪力がある。逞しすぎる両腕でしっかりと抱きしめ、優しくゆっくり何度も猫丸の背中を撫で続ける。

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