鷹の翼

那月

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三上黒鴇

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 それでも小紅は赤黒い瞳に映すだけで何もしない、何も言わない。違う、動けないのだ。隔離された2人の世界についていけなくて、白鴇が圧倒的過ぎて。

 ただ、胸の前でギュッと手を押さえて早くこの戦いが終わるようにと祈ることしかできない。

「あの子じゃあ兄さんの代わりにはならなかったよ。生きるために結婚したけどさ、声をかければビクッ!てなるし。ちょっと触れただけで逃げるんだ。いつも僕に怯えて、一緒に寝ると暴れるからちょっと痛くしたらあの子の目………………潰れちゃった」

 今、白鴇は何て言った?彼の口から吐き出された言葉にピタリと動きを止めた黒鷹に、絶好の隙を見逃すはずがない白鴇が刀を突き出す。

 耳に届いた言葉が信じられなくて、目の前まで切っ先が迫っても反応できない。

「黒鷹様ッ!!」

「白鴇様ッ!!」

 小紅の絶叫に黒鷹がハッと顔を上げたのと、もう1人の叫び声に白鴇が刀をピタリと止めたのは同時。

 瞬きをすればまつ毛が切っ先に触れる、それほどの距離に、夜空色の目の前に白鴇の刀。彼女が叫ばなければ黒鷹は、命を落としていただろう。

 3人の視線が彼女に注がれる。「ハァッハァッ」と荒い呼吸を繰り返す彼女は、息を吸い込むと肺に広がる血の匂いに「うっ」と口を押さえた。

 窓際に立つ彼女を、小紅は知らない。でもなんとなくわかった。彼女の目には包帯が巻かれているから。

「もうやめて白鴇様!お義兄さんには新しい暮らしが、家庭があるの。白鴇様だってこの城や町での、私との新しい暮らしがあるでしょう?」

「まさか……そんな、沙雪ちゃん?その目…………白がやったの?」

「びっくりした、どこから登場してるの?散々僕に怖い思いさせられたのに、まだ追いかけてくれるんだ?けど早く逃げないと、今度は光じゃなくて命を奪っちゃうことになるよ」

 窓の前に立ちガタガタと震える彼女の両目は白い包帯で巻かれている。白鴇の妻、先代の三上城城主の浩之進の娘、三上沙雪。

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