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広い屋敷、静かな家
8P
しおりを挟む今までは自分のために、白鴇のために白鴇を突き放し背を向けてきた。今度は、自分のために、白鴇のために白鴇と自分と向き合うと決めたのだ。
たとえ今度は愛する妻を、仲間を傷つけることになっても。黒鷹は死をもって償い、そして永遠に逃げる。
緩やかな風が吹き、黒鷹の短くなった髪を撫でていく。覚悟を決めたから髪を切った。血を流し、夜鷹と和鷹に誓った。
太陽はまだ高い。黒鷹は2人の墓に「じゃあね」と軽く手を振ると、歩き出す。夜まで屋敷の中で過ごす。
屋敷の中をゆったり散策し、全ての部屋に入ってみた。雪と鳶の部屋。猫丸の部屋。その隣の桜鬼の部屋。高遠の部屋。和鷹の部屋。元物置の小紅の部屋。
溜め息を吐く。どの部屋も、彼らの物がほとんど残されていた。必ずここに帰ってくるためだ。
彼らも、小紅と同じように諦めが悪いのだろう。どうせだからと、部屋の中をじっくり見て回った。
そして思った。この屋敷って、こんなにも広かったんだなぁと。部屋も庭も広いし廊下は長い。それに、こんなにも静かな屋敷は初めてかもしれない。
屋敷全体を回り終わった頃には太陽が橙色に輝き、沈もうとしていた。
自分の部屋で丁寧に刀の手入れをしていた黒鷹の視界に、何か白っぽいものが見えた。細長い何か、一瞬でよく見えなかったが彼は気のせいだと上げた顔を下ろす。
その白っぽい何かは黒鷹の真上、天井にいた。小紅と千歳にしか見えない、あの狐モドキだ。
気配は感じていたのかもしれない。しばらくそのまま黒鷹を瞬きもせず見ていた狐モドキの姿がスウッと消えると、黒鷹は弱々しいを吐いた。
「もし失敗すれば、近藤に捕まって斬首か……」
近藤はあえて、黒鷹の襲撃を知っても何もせず見て見ぬフリをしている。
それは黒鷹が失敗することに賭けているから。弟思いの黒鷹に白鴇は殺せない。それに、小紅や仲間達が必ず、黒鷹を1人にしないと確信しているから。
と同時に、反対にどうやっても黒鷹の死はまぬがれない。早すぎる死。だから近藤は「残念だ」と言った。
「あっという間だった、なぁ……」
黒鷹の消え入りそうなほどの小さな呟きは、静寂の中に吸い込まれていった。
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