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覚悟の盃
3P
しおりを挟む静かに酒を飲み、言葉を交わす。今は、今だけは酒に、2人だけの世界に酔いしれよう。
「酒があるのならつまみが欲しかったな」
「そこまで長居する気はないよ、飲んだくれ。というかあんた、どんだけ飲むの。なんとなく注いでやってるけどそれで何杯目?」
「数えておらん。おぉ、そういえば小紅ちゃんと夫婦になったということはだ、黒鷹はわしの息子も同然だな?」
「はぁ?全然違うし、認めないし。そもそもあんたは育ての親、というか雇いの親でしょ?紅ちゃんは夜鷹さんの娘なんだから、夜鷹さんが僕の新しい父親」
「むう。夜鷹は皆から慕われ、愛されておるようだの」
十数杯目の酒を喉に流す近藤は「くっくっくっ」と笑い、つられて黒鷹も酒をチビチビ飲みながら笑う。そして、咳き込んだ。
夜は咳が出やすい。横を向いて両手で口を押さえて激しく咳き込む。背中を曲げ苦しそうに何度も体を跳ねさせる黒鷹に、近藤の手が伸びる。
パシンッ!と、振り払った。特別な場所、特別な時間であっても「そこまでしちゃ、だめだよ近藤」なのだ。
赤く染まった口で荒い息を何度も吐いて、笑う黒鷹の夜空色の光は強い。線はしっかり引いている。越えることは決して許されない。
「……わかっておるのかわかっておらんのか。どうせ長く生きられぬからと死に急ぐとは、何とも哀れか」
「ははっ、どうとでも言えばいいよ。僕が自分で決めた未来だ。誰に何と言われようと、曲げる気はない」
「よう知っておる。せめて、お前が生きた証を遺せ。子供とか、な?」
「うっ、ゴホッゴホッゴフッ!ゴホッゴホッゴホッゴホッ!な、ゴフッ!なっなななななななな、何、何言っちゃってんのさいきなり!?今の、全然そんな流れじゃなかったでしょっ!?」
咳き込んだ。ものすごく激しく咳き込んだ、顔を真っ赤にして。あぁ、不意打ち過ぎて鼻水まで出ているぞ黒鷹。
「ふむ、初心かな」
「ううううううるさいっ!!黙れくそたぬきじじい!!ニヤニヤするなっ!」
まるで高遠のように吠える黒鷹。口を拭った手拭いのように顔を真っ赤にさせて、近藤に空になった盃を投げつけた。
一瞬にして空気が変わったな。それが狙いか。凶器のごとく飛んできた盃をいともたやすく、笑いながら片手でつかんでみせた近藤は34歳。断じてじじいではない。
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