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覚悟の盃
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しおりを挟む「………………そうか。ならば、わしはお前が失敗することに賭けよう。失敗してお前が生き残れば、その後どうなるかぐらい、わかるだろう?」
酔い潰す気なのか、また黒鷹がなみなみ注いだ酒を一気に飲み干した近藤はフッと笑った。
そしてすぐ、真剣な表情になって濃い黄色の瞳にうつむく黒鷹を映す。新選組局長、近藤勇の目だ。
「城主に手をかけたとなればお上の耳に入る。今度ばかりはわしでも庇いきれぬゆえ、召し取らねばなるまい。お前だけではない、鷹の翼全員だ」
黒鷹は実の弟である三上城の城主、三上白鴇に会いに行く。会って、白鴇の恨みを晴らす。己の死をもって。
1人で行く気だ。城主に刃を向けたとあらば、最悪の場合斬首を命じられる。そうなれば、いくら今まで近藤の頼みで鷹の翼の“仕事”が見逃されていても、さすがにこれはそうはいかない。
悪戯や盗みとは次元が違う。黒鷹1人での行いでも、悪名高い鷹の翼の頭領なのだからこれを機に鷹の翼全員の召し捕りも十分有り得る。
「なら、鷹の翼が存在しなければ問題ないね。僕だけが捕まればいい」
「そんな簡単に捨てられるのか?家族も同然の仲間を、愛し愛してくれる妻を。やっと受け入れ、手に入れた幸せであろう?」
「幸せだからこそ、だよ。これからもあいつらや紅ちゃんと一緒に暮らしたい、あんたを倒したいって思いもある。でも、白だって大事な家族なんだ。ちゃんと、けじめはつけないといけない」
黒鷹の青い瞳は、心は揺らがない。全て1人でけりをつける、そう決めた。
近藤は深い溜め息を吐き、やっぱりなみなみと注がれた酒を煽る。かなりの量のはずだが、酔うどころか顔色一つ変わらない。ザルか。
死にに行くと、最後の盃を交わそうと敵の頭である近藤を呼んだ。
昔からの付き合いで、黒鷹が本気だというのはよくわかる。魅堂黒鷹の本当の姿を知っているから、近藤は彼の告白を受け入れる。
新選組の局長としては今すぐに召し捕らなければならない。けれど、今の2人は対等だ。ただの昔なじみの男、2人。
黒鷹も近藤も、立場なんて関係のない1人の男。黒鷹は近藤を認めているからこそ本心を打ち明けているし、近藤も黒鷹を認めているからこそ彼を止めない。
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