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約束
9P
しおりを挟む置いた結い紐を大事そうにつかみ、胸にギュッと抱いて「ありがとう」と嬉しそうに微笑む和鷹の姿が。
そういえば黒鷹は彼の死に際に「剣術で勝ったら結い紐をあげるって約束をしていた」と言っていた。
兄弟らしく、憧れだから、兄のお古が欲しかった。そんな思いで和鷹は、いつも黒鷹との勝負に挑んでいたのか。ついに勝つことはなかったが。
もう2度と勝負はできない。ならせめて、彼がどうしても欲しかった結い紐をあげよう。もう、必要ないから。
黒鷹は小紅の短刀を手に取った。鞘から抜いて、頭上に掲げるともう片方の手で髪をつかむ。そして、小紅の目の前を淡い黒髪がはらりと舞い落ちた。
「く、黒鷹様!?何を……」
黒鷹が長かった髪を短く切ってしまった。その突拍子もない行動に目を丸くした小紅は気でも狂ってしまったのかと、までは思っていないだろうが、不安そうに見上げる。
彼は、笑みを浮かべていた。
「僕ね、病気のせいで長く生きられないって子供の頃からわかってた。じゃあしょうがない、これも運命だって受け入れた。生きているうち、動けるうちにやれることをやろうって思ってたけど。和を失って、紅ちゃんと夫婦になって、考えが変わった。生きているうちにやるんじゃなくて、やりたいことのために生きる。紅ちゃんと、皆と一緒に長く生きたいから、これからは生きるための努力をしようってね」
「生きるための努力…………でも、もう薬は効かないんじゃ……」
「今までとは違う。今は“生きたい”って強く思うんだ。病は気からって言うでしょ?変わるよ、僕」
断髪は黒鷹の決意の表れ。短くなった髪をつまんで、苦笑する彼は「格好悪いから切りそろえて?」と小紅に背を向けた。
黒鷹から短刀を返してもらい、ぎこちない手つきながらも「また一段と強くなられましたね。勇ましくて、惚れ直しました」と頬を朱に染めながら切りそろえていく。
多少の知識と技術はあってもその道の者ではない小紅の出来栄えはまぁまぁで、けれど満足そうに「ありがとう」と笑った彼は、墓石の横に置かれている刀に目を向ける。
小紅が切った髪を集めているうちに彼はその刀に手を伸ばし、つかんで腰に差した。
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