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白と黒と光と影
15P
しおりを挟む「白鴇様、諦めなされ。こやつは本気じゃ。三上黒鴇は、魅堂黒鷹によって殺されたのじゃ」
一瞬、シンと静まり返った。しかしすぐに周りの町人達がざわざわとざわつき始める。冷たい目をする黒鷹を非難し始めたのだ。
当時から夜鷹は盗賊として有名だった。三上の城を継ぐはずだった者が悪の道へ堕ちるなどと、変わってしまったと嘆く。
それでも黒鷹は気にしない。まるで聞こえていない。呆然と立ち尽くしている白鴇を見つめるばかりで、口元は笑ったままで、彼の反応を待っている。
白鴇は黒鷹を見つめていた視線を叩かれた右手に落とし、わなわなと震える。
何が起こったのかがわからなかった。呼び戻せば帰ってきてくれる、そう信じていたから。けれど、拒絶された。
叩かれた右手がやっとジンジン熱く痛んで、受け入れたくなかった現実を受け入れてしまった。
気づけば白鴇は、腰に携えていた刀を抜いていた。飴屋の主人の前に出て、刀を向ける。
「兄さん……あぁ、兄さん。僕のことが、嫌いになっちゃたんだね……じゃあ、僕も嫌いになるよ……兄さんなんて、嫌い、大嫌いだっ!!」
「白。僕は絶対、白のことだけは嫌いにならない――」
「うるさいっ!僕には兄さんが全てだったんだ!嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い、大っ嫌いな兄さんなんか消えてしまえぇッ!!」
ブンッ!と振り下ろされた刀が黒鷹の頬を掠り、さすがに夜鷹が腕を引いた。
悲鳴が上がり、黒鷹達を取り囲む町人達の輪が広がる。白鴇の体から立ち上る本気の殺意に、飴屋の店主は「ひえっ」と腰を抜かしてしまっている。
怒り、悲しみ、憎悪に満ちた薄灰色の隻眼は目の前で悲しそうに目を伏せる少年を、兄とは思っていない。裏切者。
愛する弟を傷つけた、その自覚はある。だが、これでいい。黒鷹が望んだことだ。
何か言おうと口を開き、そのまま言葉を発せずに閉ざす。そしてまた開いた口から「最後にまた会えて良かったよ」とこぼした黒鷹は、夜鷹と共にその場を立ち去る。
以降、白鴇と黒鷹は1度も会うことはなかった。黒鷹と白鴇が11歳になってすぐ、浩之進がこの世を去っても、黒鷹はひっそりと夜鷹と暮らしていた。
白鴇は黒鷹が自分を嫌いになって捨てた、そう思い込んでいる。
三上白鴇として、そして三上城の城主として君臨し新しい世界で暮らしていく。時が過ぎていくほどに、黒鷹へのドス黒い想いは濃く大きく膨らんでいった。
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