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白と黒と光と影
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しおりを挟む襖を閉めてしばらくすると、また、苦し気な咳が聞こえ始める。人の上に立つ彼のことだ、ずっと我慢していたのだろう。
誰も起こさぬよう音も気配も消して移動する術を習得していた黒鷹は、この時初めて気づいた。
いつの間にか白鴇も、自分のマネをして同じことができるようになったのだと。自分の部屋の障子を開けると、白鴇が座って待っていたのだ。
「何で僕に黙って1人で行くの?兄さんが出てったことくらい、僕ならすぐわかるよ?」
「し、ろ……話、聞いちゃったんだね。ごめん。白の前では強くて格好いいお兄ちゃんでいないとって、でも泣かないでいる自信がなかったから、ごめん……」
双子でも、黒鷹は白鴇の兄。兄は弟の見本になるように強くないといけない。その教えがいつまでも黒鷹を縛っていた。
きっと、浩之進が黒鷹の知る病なら泣き崩れてしまう。弱い、情けない姿は見せてはならないと、白鴇に声をかけなかった。
これは弟の成長を見抜けなかった黒鷹のせい。
白鴇は黒鷹がこっそり浩之進に会いに部屋を出たのに気づいた。目が覚めて、気付かれないように足音も気配も消して慎重にあとを追いかけた。
そして、2人の話を聞いてしまった。白鴇がすぐそこにいることなど、浩之進も気づいてはいなかったのだろう。
白鴇が昔のように腕を噛んで嗚咽を噛み殺して泣いていたことに、黒鷹は気づけなかった。
白鴇の顔は涙と鼻水で汚れているし、強く強く噛んでいた腕からは血が流れている。手当てをしようと伸ばされた黒鷹の手は、しかしパシンッと拒まれた。
「自分でやる」
その一言は、黒鷹の心に大きな棘となって深く突き刺さる。目も合わせてくれない。
今の白鴇にはもう1度謝っても、どんな言葉を投げかけても黒鷹の声は届かない。
いつも、何をするにも一緒だったのに、置いて行かれた。裏切られた。そう、思っているのかもしれない。それが悔しくて悔しくて。
自分達では、誰にもどうすることもできない残酷な現実に言葉が失われる。ただただ震えて、縋りつく。
だから、それに応えるように静かに何も言わず抱きしめた。言葉なんていらない。正面から包み込むように、もたれかかるように抱きしめる。
2人で静かに泣いた。
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