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白と黒と光と影
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しおりを挟む佳代に“母親”を感じるように、浩之進にも“父親”を感じ始めていた黒鷹と白鴇。
城主ということもあるし心配だ、何か自分達にできることはないだろうかと、城に帰ってから白鴇は黒鷹に声をかけた。
「美味しいごはん、作ってあげようか。僕達を助けてくれた時みたいに、お茶と粥を持ってさ?」
黒鷹の提案に白鴇は目を輝かせた。あの時とは立場が反対。翌日、佳代に頼み込んで浩之進に会う許しをもらった。
6回も「だめよ。移ったらあの人、泣いちゃうんだから」と断られた。それでも諦めきれなかった2人は先に、お茶と粥を用意してからもう1度頼み込んだのだった。
まさか佳代という大きな壁を乗り越えてやってくるとは思わなかっただろう。眠ってはいないが横になって咳をしていた浩之進は、突然の息子達の見舞いに驚いてむせ込む。
部屋に招き入れ、2人が持っているものに気付けば「なるほどな」と心から嬉しそうに笑顔を浮かべる。
浩之進は2人が思っていたよりも重篤。顔色は悪く、あまり食べていないのか少し痩せていた。しかし自力で起き上がり、出来立ての粥を口に運ぶ様子を見ればあと数日で回復しそう。
実はこの時は食欲なんかなかったが、2人のために器を空にした。どんな味付けをしたのか、美味くてさじが進んだということもある。
食後に少し話をした。回復するまで、溜まっている城主の仕事を手伝わせてもらうとか。飴屋に隠し子だと言われたんだとか。
楽しそうに笑顔を浮かべる浩之進は「頼もしい息子達に育ったものだ」と、再び横になる。
それを合図に2人は立ち上がり早速書類の処理に取り掛かろうと、山積みになっている書類を手に背を向けた時だった。
「…………無理はしないでね、父上」
ポツリと呟いた黒鷹の言葉に浩之進はハッと起き上がる。しかし2人の姿はもうない。
初めて“父上”と呼んだ。いつも“浩さん”だったのに。それに、喜ばしいはずなのに声は低くあの言葉には何か深い想いを感じる。
まさか気付いたというのか?激しく咳き込む浩之進は枕もとのお茶に目を向け、考えた。そういえば黒鷹はずっと、特に咳をする時にジッと見ていた。
もしも気づいてしまったのなら、浩之進は次に2人に会った時にどんな顔をすればいい?体調を崩しているのが風邪ではなく、治ることのない病だというのに。
いつもは飄々としているが、何かと観察眼の鋭い黒鷹のことだ。その事実に気付いてしまったのなら。覚悟を決めた浩之進は、目を閉じた。
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