223 / 386
白と黒と光と影
1P
しおりを挟む男の言葉に嘘偽りはない。その証拠に、指を差された黒鷹が「本当だよ」と小さく呟く。
「こうするしかなかったんだ。父様も母様も話が通じる相手じゃない。殺さないと白が……僕達が殺されていたから」
あの日、白鴇を迎えに来た時の黒鷹は全身に血がついていた。黒鷹自身も怪我をしていたのでその血も混じってはいたが、ほとんどは返り血。
あれは両親を手にかけた時のものだったのか。いや他の、使用人達とも戦っていたのかもしれない。
町奉行は盗賊集団による仕業だ、子供2人は人質か人身売買用にさらわれたと思い込んでいるようで今も血眼になって探しているんだとか。
まさか、子供の黒鷹が1人で起こしたことだとは夢にも思うまい。
「……茶でも淹れてこよう。なに、心配せずともお前達2人くらい某が養ってやるさ。これからはここが我が家だと思って過ごすがよい」
2人の口が閉じて何とも暗く重い空気になってしまったため、男は明るくそう言って部屋を出て行った。
あの男、一体何者なのだろうか?2人を養うとか言っていたが、白鴇はともかく重罪人の黒鷹を隠し育てるつもりなのか。
しかしそんなことよりも。白鴇は自分に向かって伸ばされた黒鷹の手を、反射的に避けた。
生き抜くためとはいえ屋敷に火を放ち、両親を殺したその手が、血で真っ赤に染まって見えたから。
「僕が怖い?憎い?本当はね、できると思わなかったんだ。強くなったって言っても子供だし。でも白のためにって強く願ってたら、できたんだ」
「こ、怖いよ。でも、父様と母様の方が怖かったから、憎いとは思わない。本当に強いんだね、兄さんは」
皮肉にも、黒鷹を精神的にも肉体的にもここまで強くしたのは両親だ。全ては家のために。鍛え上げられてきた優秀な兄は、虐げられ続ける弟のために家を潰した。
自分が何をしたのか、事の重大さはわかっている。罪を償うことも考えている。
白鴇が1人で生きていけるようになれば、その時が来れば黒鷹は彼の前からひっそりと姿を消すよう心に決めている。
それを、見抜いたのか?1度は避けた黒鷹の手を、両手で包み込む白鴇は言った。
「兄さんの罪は僕の罪。兄さんをそうさせた責任は僕にもあるから。僕達はずっと一緒だよ」
両親を殺した手を温かい手で握り、見つめて、微笑む。それだけで十分だった。黒鷹は目に涙を浮かべて「ありがとう」とうなずく。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
戦国の華と徒花
三田村優希(または南雲天音)
歴史・時代
武田信玄の命令によって、織田信長の妹であるお市の侍女として潜入した忍びの於小夜(おさよ)。
付き従う内にお市に心酔し、武田家を裏切る形となってしまう。
そんな彼女は人並みに恋をし、同じ武田の忍びである小十郎と夫婦になる。
二人を裏切り者と見做し、刺客が送られてくる。小十郎も柴田勝家の足軽頭となっており、刺客に怯えつつも何とか女児を出産し於奈津(おなつ)と命名する。
しかし頭領であり於小夜の叔父でもある新井庄助の命令で、於奈津は母親から引き離され忍びとしての英才教育を受けるために真田家へと送られてしまう。
悲嘆に暮れる於小夜だが、お市と共に悲運へと呑まれていく。
※拙作「異郷の残菊」と繋がりがありますが、単独で読んでも問題がございません
【他サイト掲載:NOVEL DAYS】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる