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見通す者と影
4P
しおりを挟む「…………頭領も、ご無理はなさらないでください。では……行ってまいります」
少し頭を下げると部屋を出て、ちょうど井戸から戻ってきた小紅を見つける。周りの気配を探りながら足を止めた鳶。
「お話は終わったようですね。これからお務めですよね?今日は、眠気は大丈夫ですか?」
しっかり洗った手拭いを手に心配そうに見つめる小紅の肩に、スッと手を置くと鳶はほんの少し、目元の力を抜いた。
もう片方の手で口元を覆っている布を顎までずらすと、口角を上げる。もしかして、微笑んでいる?
「俺は、俺にできることをやる。頭領を守る……強い想い、あれば……冴える。眠く、ならない。それに…………俺には、雪がいる。だから…………もう……大丈夫だ。ありがとう」
「えっ……?」
それは本当に自然な、柔らかい笑みだった。ちょっと恥ずかしそうに、でも満足そうに布で口元を覆い隠し肩から手を下ろすとそれ以上は何も言わず1歩下がり。そして、姿を消した。
まるで闇に溶けるように、物音も気配も瞬時に消して。立ち尽くす小紅はハッと我に返って、黒鷹の部屋へと足を踏み出す。
雪がいるから大丈夫とは、一体どういうことだろうか?もしかして、鳶が眠くなって気を失いそうになったら雪が察知して駆け付けるとか?
いくら夫婦でも、そんな特殊能力めいたことができるのか?いや、鳶と雪ならできるのかもしれない。
なんて考えながら、鳶の安全を願って黒鷹の部屋の障子を開けた。鳶も、出会った時とはだいぶ印象が変わったような気がする。
まず、よくしゃべるようになった。あまり長くしゃべると疲れるのは変わらないが。そして小紅と一緒にいる時の雰囲気が、眼光が柔らかく優しくなった。
彼も小紅と話をしてから、己と向き合い改めて考え直したのかもしれない。
今までは命令されたことだけを忠実にこなしてきた。命令以外のことはたとえ手を出した方が、口を出した方がいいと思っても絶対にしなかった。
忍は仕える主の手足であり道具だから、意思を持ってはいけないものだから。
ずっと、そうして生きてきた。幼い頃に心を壊して捨てた。主のために躊躇せず何でもできる、主のために死ねる完璧な忍になるために。
それも、里を追われ夜鷹に手を引かれ雪に出会ってからはほとんど無意味となってしまったが。
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