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浅葱色の想い
8P
しおりを挟む一体いつ目撃されたのか。鳶の話によれば新選組の屯所に忍び込んだ際、珍しく女の声がしたので覗いてみればそこには土方と、奇妙な面をつけた女がいた。
半分は黒地に赤で、もう半分は赤地に黒で装飾されたキツネの面をつけた女の声はくぐもっていて今の小紅と同じ人物だとは断言しづらい。
その奇妙な女が小紅だと気づいたのは、鳶曰く“勘”だそうだ。まったくもって鋭すぎる勘だ。
当時、新選組の屯所のどこかには女の幽霊が出るという噂があった。というのも、男しかいないはずの屯所内で女を見たという平隊士がたまに騒ぐのだ。
結論から言えばそれは幽霊などではなく“存在しない存在”だと言われる紅花。新選組の幹部しか知らない土方の小姓。
「俺は、まだそこまでしか知らない。知らない方がいい……こともある。口外しようとは、思わない……」
観察するだけでそこまでわかってしまうのか。生まれ持った鳶の天才忍者気質が、紅花を震え上がらせる。
酷く落ち着いた様子の鳶に力なく笑った小紅は力を抜き、その場に座り込んだ。小紅が抱える秘密のおよそ半分を、この鳶は見抜いている。
普通なら気づいた時点で頭領である黒鷹に報告しているはずだ。しかしそうしなかった、口を閉ざしたまま見守っているのは鳶にも思うところがあるから。
小紅、紅花の秘密はまだある。まだ話せる時ではないからと胸の内に秘めていることと、それから、紅花自身も知らない真実。
「……鳶さんのくせに、よくしゃべりますね。その気になれば私はここから出てあなたの息の根を止めることだってできるのに」
「小紅さんは、そんなことしない。できない」
「くっ!私を舐めているのですか!?女だから、忍じゃないから偽りでも仲間だった者を殺せないと、笑うのですかっ!」
「違う。俺は…………紅花さんから土方と、他の人からの温かい想いを感じた。小紅さんから頭領の、温かい想いを感じた。その……あなたは、小紅さんだから、まだ、生きていなければならない。と…………そんな、気がする」
再び小紅が発火して大きな声を上げても、鳶は落ち着いた姿勢を崩さず、逆に力強いまなざしを向ける。
小紅と紅花が入り混じっている。新選組と鷹の翼の間で揺らめいている心を、感じている。
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