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真実の嘘
13P
しおりを挟む声を荒げることもなく静かに怒りを露わにした和鷹。心の奥に押しとどめていた想いを、全て吐き出した。
思ったことを感情に任せて怒鳴り散らす高遠とは違い、心をゆっくりゆっくり握り潰されるような重圧感がある。
和鷹は、黒鷹を否定する。小紅が新選組の間者だというのを隠してきたのとはわけが違う。鷹の翼の、家族の絆を踏みにじったのだ。それも、何年も。
和鷹は夜鷹に近づくために、その手前にいる黒鷹を見続けてきた。だからこそ黒鷹のことをよく知っている。
「黒鷹は、頭領として皆に信頼されている。組織だからだ。だが魅堂黒鷹としては誰からも信頼されていない。なぜだかわかるか?お前が誰も、自分自身さえ信じていないからだ」
本当によく見ている。頭領を1番そばで支える者として、そして弟としてずっと見てきたからこそ、黒鷹本人でさえ気づかなかったことに気付く。
最後の一言は黒鷹の心に大打撃を与えたようだ。1度開かれた口は何も言葉を紡ぐことなく閉ざされ、ユルユルと伸ばされた右手は彼に睨みつけられるとビクッと跳ねて膝の上に帰る。
何も言い返せない黒鷹の背中が小さく見えた。わずかに震え、必死に涙をこらえているようにも見える。
和鷹の言葉に嘘偽りがないから、小紅は何も言わずに見守っている。間者だとバレてしまった今、小紅は自分にできることを全うすると決めた。ある目的のために。
「………………フッ……そうだね。家族も同然の仲間を信用していないなんて頭領失格だ。僕は…………少し、頭を冷やしているよ」
力なく笑った黒鷹は和鷹と目を合わせることなく立ち上がると背を向け、部屋を出て行ってしまった。
障子が閉められ黒鷹が去った後、小紅は見た。ギリリッと歯を食いしばり悔しそうな、今にも泣きそうな顔をうつむかせている和鷹を。
残されても動じず自分を見つめ待っている小紅に気付いた和鷹は、すぐにまた仏頂面に戻って溜め息を吐いた。
「お前も、兄上もわけわかんねぇよ。頭の中がぐちゃぐちゃで吐きそうなくらいなのに、お前はまだ俺に両親のことを話そうっていうのか」
「和鷹さんがそれを望むのなら、です。私はもう新選組を除隊されていますし、隠すことは何もありませんから。あとはこの命を絶つだけです」
冗談なんかではない、これは事実。作戦失敗の伝令のネズミを差し向けた瞬間から小紅は死人も同然。今生きているのは黒鷹に、生かされているから。
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