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初仕事
8P
しおりを挟む戦闘音、刀と刀がぶつかる音がさっきとは違う方向から聞こえる。それに聞こえる怒号は高遠の声ではない。
「なぜあんたが出てくるんだッ!?」
「だぁーっ!穴だらけじゃねぇかっ!クソッ、こんな深い落とし穴を庭中に作りやがって……うわぁっ!?」
叫び声は2種類。1つは聞き覚えがあるからすぐにわかった。黒鷹達とは反対の場所から侵入したはずの、和鷹の酷く焦った声だ。
もう1つは口調は高遠のように乱暴だが初めて聞く声。どうやら、雪が丹精込めて作った落とし穴に何度もハマっているらしい。かわいそうに。
「チッ、あの人まで出てきたのか。…………相手が悪い。僕達だけでも見つからないように、逃げるよ」
険しい顔つきの黒鷹はあたりを見渡すと、クルッと体の向きを変えて足を踏み出す。高遠と桜鬼が見つかり和鷹と雪も見つかった。
ここで黒鷹が、頭領が捕まるわけにはいかない。和鷹が誰と戦っているのかはわからないが、小紅も走って黒鷹についていく。
そのつもりだった。黒鷹が急に立ち止まらなければ。
焦げ茶色の背中にぶつからないように寸前で足を止め、黒鷹が前を鋭く睨みつけているのに気が付いた。
小紅を前に出さないように左手で遮り、小さく小さく「やっぱりか」と唸った。その言葉に込められた感情は怒りか悲しみか。
ゾクゾクッと肌が泡立ちそうなほどに、黒鷹と目の前の人物から放たれる圧倒的な力。誰!?黒鷹の視線をたどって赤黒い目を前に向けると。
そこに立っている人物に、小紅は息を飲んだ。
「こんばんは、黒鷹。今日はいつにも増して悪戯が過ぎるな。少し灸をすえてやらねばならんゆえ、このまま帰すわけにはいかんよ」
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