139 / 386
初仕事
6P
しおりを挟む時折見せる小紅の瞳に宿る強い光は、生前の夜鷹を思い出させる。ドクンッと心躍る、というのか。それが黒鷹には、嬉しかった。
「ここが蔵だよ。鍵を開けるのが得意な桜鬼が何度やっても開けられなかったんだ。桜鬼によると特殊な鍵が、2本必要みたいでね。同時に突っ込んで回さないと開かないんだって」
蔵の前で足を止めた黒鷹が大きく頑丈そうな錠を撫で、苦笑を浮かべる。恨めしそうに。
「開けられますよ。何か細い針金…………あ、かんざしと、これとこれを使って……」
小紅が、錠を見つめながら1歩前に出た。髪に刺していた細いかんざしと、なぜ今持っているのか縫い針と途中で拾った針金らしきものを、錠前の穴の中に突っ込む。
カチャカチャッ、ガチッ、ガチャッ。……カチャ、カチャカチャッカチャッ……
3本の細い棒を、器用にそれぞれ動かし、時折中の音を確認しながらいじっていく。その表情は真剣そのもので、次第に額に汗がにじんでくる。
昔、桜樹としていくつもの錠前を無力化してきた桜鬼が開けられなかった錠前。それを小紅ごときが開けられるのか?
誰もが嘲笑うだろう。しかし、身の潔白を証明すべく真剣に取り組んでいるこの小紅を見てしまった黒鷹はそうは思えない。
小紅は絶対に開ける。錠前破りの技なんてどこで習得したのかなんて気にならないくらい、その姿に目が釘付け。ドクンッドクンッと、心臓が高鳴る。
やがて、カチッと心地よい金属音がして。穴から3本の棒を引き抜くと、ゆっくりと錠前を外して見せた。
「え、うそ、できちゃった」
小紅の第一声がこれだ。自分でも、まさかできるとは思っていなかったらしくかなり驚いていて。外した錠前を手に「どうしましょう?」と黒鷹を見上げる。
「わぁ、びっくり。すごいね。全部終わって帰ったら、いーっぱい褒めてあげるよ。でも、今は中に入ろう。小紅ちゃんを探す。それに、ちょっと調べたいこともあるしね……」
夜空色の目が、丸く点になっていた。しかしすぐに我に返って、そう言うと小紅の横を通り過ぎて蔵の中へ。
初めて踏みしめる、蔵の中の床。夜で明かりもなくてほとんど見えないが、黒鷹には見える。そして、小紅にもよく見える。
「まえ……違う。もっと前…………13年、前……」
黒鷹は、蔵の中に書き記されているであろう“小紅”を探しながら、何か別のことも調べていた。どちらかというとそっちの方を集中的に調べているようだが、何を調べているのやら。
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる