鷹の翼

那月

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初仕事

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「本来の政治はへたくそなくせに、こういうことばっかりずるがしこい馬鹿な大人がいるんだよ。町の貧しい人達の中には、僕達からのおすそわけがなければご飯も食べられない人だっているのに見て見ぬふり。それなりに、責任重大なんだよ」

 事実。今日は悪戯も時間が許す限り仕掛けるつもりだが、本来の目的は金。

 新選組幹部の中にいるという、異様に蓄えすぎている真っ黒な金を持ち主に見合った分だけ残して盗む。そして一部は町の貧しい人達に分け、残りは鷹の翼の生活費へ。

 部屋に忍び込み、目的の黒い金を盗み出すのは忍の2人の役目。他は悪戯を中心に屋敷内の散策。

 庭に降りる時は気をつけないと、今回は雪が庭中に落とし穴を仕掛ける手はずになっている。落とし穴を見分けられるのは鳶だけなので、誤って引っかかってしまえばもれなく新選組が駆け付けてくるだろう。

 しょっぱな、見事にかかってしまった小紅だ。2度目はないと願いたい。とか考えながら、かまどの中の灰色の粉を見つめる。

 投げ入れたのは大量のコショウ。火をつければ爆発こそはしないだろうが、大火力。何より、煙が立ち込めてむせ込んで涙と鼻水を垂らすのは間違いない。

 この発想に黒鷹は「あはっ……くっくくくくっ」と、奇妙に笑った。

 大声を上げて大爆笑できないから、両腕で腹を抱えたまま体を折り曲げて。声を出せない代わりに苦しそうに、楽しそうに息を小刻みに振るわせ笑う。

「さぞかし面白い、汚い面をさらすんだろうね。実際に見られないのが残念だよ。紅ちゃん、悪戯の才能があるんじゃない?」

「前に、お店のご主人が誤ってコショウの入れ物をひっくり返して大惨事になったのを思い出したんです。火事になりかけましたが、店の外の人達まで煙が襲って大変でした」

 つまり小紅自身、巻き込まれた被害者だということらしい。その時のことを思い出したのか、視線が明後日の方向を向いている。

「じゃあ勝手場はこのくらいにして、他を見に行こうか。せっかくだし、どこか行きたいところでもある?」

「行きたいところって…………新選組の屯所なんて初めて来たのに。道場があるとは聞きますが、風呂場や厠くらいしかわかりませんよ。蔵でも覗きますか?」

「なぁんだ、知らないのか。蔵には新選組のあらゆる情報があるっていうんだけど、まだ1度も入ったことがないんだよね」

 さらっと、探りを入れたな。

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