135 / 386
初仕事
2P
しおりを挟む足音も気配も消して、いつもはギャーギャーうるさい高遠ですら口をつぐんで周りを警戒しながら進む。まぁ、たまに小紅を睨みつけているが。
「じゃ、高遠と桜鬼は向こうで暴れておいで。くれぐれも殺さない、壊さないを第一に。健闘を祈ってるよ、行ってらっしゃい」
ここはどこらへんだろうか?結構奥まで誰にも見つからずに進んでいると、足を止めて桜鬼と高遠に向き直って手を振る黒鷹。
大層嬉しそうに「任せろっ」と笑う高遠と、遠くを見つめてから「黒さんと小紅ちゃんも気を付けて」と振り返った桜鬼。
2人はうなずき合うと音を立てずに廊下に足を踏み入れ、暗い屋敷の中へと姿を消していった。
そして黒鷹と小紅はさらに庭を歩き、ここは勝手場か?裏口から中に入り、食料を物色。
「うーん、去年よりイイモノ食ってんじゃないか。金でも食料でも、余ってんなら僕達に分けてくれればいいのに。ね、紅ちゃんもそう思うでしょ?」
「へっ!?あ、す、すみませんっ……」
大量の食糧を眺めながら、顔を上げずに小紅に話を振る。で、突然振られた小紅は驚いてつい声が裏返り、慌てて両手で口を覆う。
「クスクス…………今はちょっとだけマシになったけどさ。少し前まで、貧しい人達は1日1回食事できるかできないかの暮らしだったんだよ」
朝早く夜遅くまで働いて、ようやく手に入れた食料は恵んでもらった漬物の切れ端と、傷んで売り物にならない古い米が少し。
働かざる者食うべからずなんて言葉が憎たらしい時代、黒鷹は生きていた。その名残で食が細いのだ。
食が細いため、同い年の男の町人と比べれば体が細い。けれど刀の腕は確か。ごくたまに和鷹と刀の稽古をつけているのを目にするが、毎回勝つのは黒鷹。
一緒に観戦していた雪によれば和鷹は今まで1度も、黒鷹に勝ったことがないんだとか。なので刀を合わせる時は、異様に力が入っている和鷹。
黒鷹と一緒にずっと暮らしてきた割には、黒鷹よりは体ががっちりしている。あぁ、もしかしたら黒鷹は風邪気味なのかもしれない。最近、たまに咳をしている。
対する小紅は大抵1日3食はなくとも、量は少なくても必ず1日2食は食べていた。母親が、世話をしてくれた大人がよく可愛がってくれていたから。
黒鷹が言うような時代があることは小紅だって知っている。同情するしかない。気まずく「すみません」と顔をうつむかせることしかできない。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
KAKIDAMISHI -The Ultimate Karate Battle-
ジェド
歴史・時代
1894年、東洋の島国・琉球王国が沖縄県となった明治時代――
後の世で「空手」や「琉球古武術」と呼ばれることとなる武術は、琉球語で「ティー(手)」と呼ばれていた。
ティーの修業者たちにとって腕試しの場となるのは、自由組手形式の野試合「カキダミシ(掛け試し)」。
誇り高き武人たちは、時代に翻弄されながらも戦い続ける。
拳と思いが交錯する空手アクション歴史小説、ここに誕生!
・検索キーワード
空手道、琉球空手、沖縄空手、琉球古武道、剛柔流、上地流、小林流、少林寺流、少林流、松林流、和道流、松濤館流、糸東流、東恩流、劉衛流、極真会館、大山道場、芦原会館、正道会館、白蓮会館、国際FSA拳真館、大道塾空道
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
三賢人の日本史
高鉢 健太
歴史・時代
とある世界線の日本の歴史。
その日本は首都は京都、政庁は江戸。幕末を迎えた日本は幕府が勝利し、中央集権化に成功する。薩摩?長州?負け組ですね。
なぜそうなったのだろうか。
※小説家になろうで掲載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる