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一歩前で待つ
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しおりを挟むいわば凶暴化は猫丸の武器の1つになった、ということだ。ただ、猫丸自身が自らの意思で凶暴化、そして解除することはできないということが欠点か。
「んん、まっふぇ……兄ぃ……」
目を覚ましたのかと思った。モゾモゾしながら可愛らしい声を漏らした猫丸は夢を見ているのか、少し笑ってまた静かな寝息を立て始めた。
ついさっき凶暴な山猫に豹変して山崎に襲いかかっていたとは思えないくらいの、幸せそうな笑顔だった。
どんな夢を見ているのだろう?「兄ぃ」ということは、鳶に稽古をつけてもらっている?
「慌てなくていい。俺は……待っている、から……早く追いついて、追い越して……」
矛盾しているぞ、鳶。急かすのか急かさないのかどっちなんだ。なんてツッコミを入れられるほど、小紅に余裕はない。
ただ、兄である鳶は猫丸の前で彼が成長し自分が立っているところまで来るのを待っている。手は差し伸べない。彼の力を信じて待っている。
そこにある、確かな強い絆。鳶の優しい目。切れ長の青い目はいつも鋭く、怖すぎて子供が泣き出してしまうくらいなのに。今は、力が抜けて優しく、温かい。
猫丸はこれからもっともっと成長するだろう。鳶に追いつき、突き放されてもまた何度も追いつき、そして追い越していく。
猫丸は鳶のことをどう思っているのだろう?兄?忍としての師匠?それ以外には……
「やっぱり皆さん、それぞれ深い事情をお持ちなのですね」
「……小紅さんにも、事情がある。わかる。深くはわからないが…………誰よりも、難しい。深い」
いつの間に振り向いたのか、一瞬小紅がうつむいて顔を上げると、鳶がジッと見つめていた。
明るい青い瞳に小紅の赤黒い光が映っている。瞬きもしない。が、小紅が背けるよりも早く反らされた青い瞳は、眠り続ける猫丸を映す。
鳶は気づいていたのだろうか?彼の言葉が小紅の胸の奥に突き刺さり、心臓が早鐘を打っていることに。ビクリと小紅の表情がこわばり青ざめていることに。
きっと気づいているのだろう。気付いたからこそ、それ以上追及することなくさりげなく視線を猫丸へと移した。
だが、それがよりいっそう小紅を焦らせる。声が、震えた。
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