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一歩前で待つ
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しおりを挟むとにかく獰猛な獣だった。食事は手づかみ、布団で寝ないし風呂に入るのをかなり嫌う。いつも猫と一緒にいないと暴れた。
それほど、人間の世界からかけ離れていた。だが忍頭や他の忍仲間達の諦めない優しさのおかげで猫丸は少しずつ人間らしさを取り戻していった。
猫丸の世話には怪我がつきものだったそうだ。中でも鳶は猫丸を弟のように可愛がり、いつもそばにいて人間らしさを教えていたんだそうだ。
何度も引っかかれ、噛みつかれ、跳び蹴りを食らい、それでも諦めなかった。だって猫丸は人間の男の子なのだから。
え、鳶が?この、誰よりも忍らしい、空気よりも存在感がなく無表情の鳶が?人間らしさを教えるなんて。と、小紅は正直に思ったが口には出さなかった。
だが鳶の教えのおかげ、周りの忍達との生活、ふれあいで人間らしく本来の自分を見つけた。
「丸……俺の、弟。大切」
「そうですね。猫丸君は鳶さんのことをよく見ていますし、私にも慕っているのがよくわかります。なんか、いいですね」
鳶がほんのわずかに笑った、ような気がした。口元は布で覆われているし背を向けているので見えないが、そんな雰囲気がした。
この時代で孤児なんてものはよくあるが、赤ん坊の頃から猫に育てられるのはまぁまず猫丸だけだろう。それにしても名前の付け方、もっと何かあっただろうに。
だがまだ肝心の猫丸の豹変については何もわかっていない。背を向けたまま、鳶がまたモゾモゾしているので続きを書いているのだろう。
先にもらった手紙を読み返して、小紅は続きを待つ。小紅もバカではない。なんとなくは想像がつくが。
「あ、ありがとうございます」
少しして書き終わった手紙を受け取ると、やっと本題。忍独特の文字を何とか読み、目を見開く。
どうやら猫丸は元が野生だったせいで凶暴さが抜けきらない。さらに1度、奇怪だと悪党に誘拐され売られたことがありより凶暴さが増してしまったようだ。
鳶が見つけた時、大暴れしたのかすでに誘拐犯は死んでいた。まるで獰猛な獣に食い散らかされた後のような光景だったそうだ。元の生活に戻ってもその凶暴さは消えることがない。
今は“呼びかけ”がなければ凶暴化しないようしつけられてはいるが。その“呼びかけ”は頭領である黒鷹と鳶にしかできず、他の人では全く反応しない。
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