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一歩前で待つ
1P
しおりを挟む………………気まずい。
牢で黒鷹を見送り眠る猫丸を抱いた鳶のそばに居続ける小紅は、静かすぎる部屋で必死に口を閉じて正座中。
ここは猫丸の部屋。布団を引いて猫丸を寝かせると「大丈夫」と一言呟いただけの鳶は、枕元で座ったままピクリとも動かない。
猫丸に何が起こったのか聞きたいという思いがどんどん膨らんでいく、聞けないから。
スヤスヤと穏やかに愛らしく熟睡している猫丸を前に大きな声は出せないし。かと言って、弱り休んでいる子供を1人にして部屋を変えるということもできない。
だから小紅は悶々とし続けている。爆発はもうすぐ目の前か。
そこそこ背が高く大きな鳶の背中を見続けていると、急に何かモゾモゾとし始めた。ピンとまっすぐ伸ばされた背中しか見えないので何をしているのかはわからない。
ケガをしていたし、猫丸の傷の手当てをしているのかもしれないと思った。あ、違った。
「え?何、紙……手紙っ!?あっ、ご、ごめんなさい……」
不意に体ごと振り返った鳶が、白い紙を差し出してきた。受け取って広げると何か長々と書き綴られている。
それが小紅への手紙だと気づけば驚きのあまり声が裏返り、ハッと手で口を塞ぎ猫丸に目を向ける。大丈夫だ、起きない。
この超至近距離で、手紙。紙と筆と墨を常に持っているのか、そして手紙という手段で小紅と話をしようとしたことに、大層驚いてしまう。
鳶は口元で人差し指を立てると再び背を向け、ピクリとも動かなくなった。見守る体勢、再開。
「ありがとうございます」
その手紙は、猫丸と小紅を気遣って書かれたもの。小紅が何を言わんとしているのか、嫌でもわかるので仕方なくこの方法をとった。
手紙には小紅が知りたがっていた、猫丸のことが書き綴られていた。……時間と文字数が、合わない。
猫丸、推定11歳、男。複数の猫を使役していて、昔鳶の出身である忍の里の頭が猫ごと拾ってきた孤児。命名は忍頭。猫と会話ができる、猫と同じで日向ぼっこが大好き。
およそ赤ん坊の頃に捨てられていたようで、世話をしていたのは群れの母猫らしい。人間が来ない山奥で猫達と暮らしていた、野生。
忍頭に出会うまで他の人間を見たことがなかったのか、人間の言葉を理解できていなかった。屋敷に来た当時は自分が人間だと自覚させ言葉を覚えさせるのが大変だったんだと。
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