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影
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しおりを挟む「向こうは僕達に気付いていないな。君は黒さんに知らせて――」
「いえ、私達で捕まえましょう。桜鬼さんがおとりになってください。曲者が出てきたら私が……って、何ですかその顔は。私だってそれくらいはできますよ」
ここは普通、小紅がおとりになって桜鬼が捕まえるんじゃないのか?短刀を握り締めて口をとがらせている小紅を「本当に?」と怪しむ桜鬼。
そりゃあそうだ。まだ誰も、小紅が武器を手に戦う姿など見たことがない。どれくらい戦えるのかは未知数。
少し離れた茂みの奥で身を潜めている曲者を前に怯えずにいる。むしろ好戦的。そんなに自分の力に自信があるのか、良い作戦でもあるのか。
桜鬼は信頼しているとは言ったが、おとりになるということは小紅に背を、命を預けるということ。果たしてそこまでの信頼に値するのか?
しかし悩んでいる時間はない。桜鬼は渋々「わかった、頼むな」と腰を上げると、屋敷の中へと歩いていく。何かあれば自分で対処すればいい、そう心を決めた。
まるで、眠れなくて気分転換に外に出ていて、良い感じに眠くなってきたので部屋に戻ろうとしているようだ。
何を思ったのか、屋敷に上がる直前に足を止めると振り返って顔を上に向けた。ちょうど半分の三日月が下界を見下ろしている。
儚げな表情で三日月を見上げる桜鬼は何を思ったのか「……はぁ」と溜め息を吐き、どうやら曲者はその様子を好機と読んだようだ。
小紅の作戦通り、なのか?桜鬼の斜め後ろの方に回り込み、今にも飛び出しそうにしている曲者の姿が少しだけ見えた。
これは釣り。桜鬼という名の餌がついた針を投げ入れ、曲者を釣り上げる。そうとも知らずに曲者は、背後で息をひそめている釣り人に気付くこともなく餌に食いついた。
闇に溶けてしまいそうな黒い忍装束姿の、細身の男のように見える。男は桜鬼に集中していて小紅が近くまで近寄っていることに気付かない。
そして男が飛び出そうとしたその瞬間、小紅が飛びかかるよりも早く、男は何者かに背中を蹴られそのまま地面に押し潰されてしまった。
小紅よりも後ろから、頭上を飛び越えて飛びかかった何者かは目にも留まらぬ速さで男の両腕をひねり上げ、首筋にクナイを突きつける。
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