鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
85 / 386
桜樹と桜鬼

10P

しおりを挟む

 ――深夜。小紅はパチッと目を覚まし手早く着替えると護身用の短刀を手に外に出る。

 物音を、足音を立てないよう細心の注意を払いながら。気配もできるだけ消して、感じる気配の方へとゆっくり近づいていく。

 部屋の前から中庭へ、中庭から屋敷の外に出て裏へ。そこでようやく小紅を起こした怪しい気配の正体を見つけ、構えていた短刀を下ろす。

「やっぱりなぁ。君なら気づいて出てくると思ったよ」

「なぜ、私を試すようなことを?私が何者なのか、黒鷹様に突き止めるよう言われたのですか?」

「今までの君を見ててさ、やっぱり小紅ちゃんはただ者じゃないって思ったんだ。深く問い詰めようとは思ってない、話す時が来れば話してくれるって言ったあの言葉を信じてみることにしたから」

「その優しさがいずれあだとなりますよ、きっと。優しすぎますから、桜鬼さんは」

 そこで待っていたのは桜鬼。普段の彼の気配なら小紅にはすぐにわかったはず。なのに侵入者かもしれないと警戒してここまでやってきたのは、目の前にいる彼がいつもと違うから。

 見た目はいつもの桜鬼なのに、纏っている雰囲気が違う。彼の違和感に、もしかしたら変装した侵入者かもしれないと短刀は下げても警戒を解くことはできない。

 今も、そこにいるのが本当に桜鬼なのかわからない。妙なのだ。だからジリジリと距離を取って首をかしげる。

「今の僕がわからないんだろ?大丈夫、小紅ちゃんが何となく感じている通り、今の僕は“おうき”だよ」

 小紅の前で勇ましくも優しく微笑む彼は“桜鬼”であり“桜樹”でもある。違和感の正体に小紅は納得し、そこでようやく警戒を解いた。

「僕達、ちゃんと向き合って話をして、手を取り合うことにしたんだ。そうしたらこうなったってわけ」

「お2人が1つになったのですね。いえ、元々1つだった……」

 小紅に出会ったことで発作が起こり、桜樹になって殺しかけた。小紅に出会ったことで己と向き合い、改めて受け入れることができた。

 このことはまだ黒鷹にも伝えていないらしい。まず先に、きっかけとなった小紅に伝えたかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

戦国の華と徒花

三田村優希(または南雲天音)
歴史・時代
武田信玄の命令によって、織田信長の妹であるお市の侍女として潜入した忍びの於小夜(おさよ)。 付き従う内にお市に心酔し、武田家を裏切る形となってしまう。 そんな彼女は人並みに恋をし、同じ武田の忍びである小十郎と夫婦になる。 二人を裏切り者と見做し、刺客が送られてくる。小十郎も柴田勝家の足軽頭となっており、刺客に怯えつつも何とか女児を出産し於奈津(おなつ)と命名する。 しかし頭領であり於小夜の叔父でもある新井庄助の命令で、於奈津は母親から引き離され忍びとしての英才教育を受けるために真田家へと送られてしまう。 悲嘆に暮れる於小夜だが、お市と共に悲運へと呑まれていく。 ※拙作「異郷の残菊」と繋がりがありますが、単独で読んでも問題がございません 【他サイト掲載:NOVEL DAYS】

処理中です...