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桜樹と桜鬼
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しおりを挟む「…………スゥ……スゥ……」
「こいつ、寝てやがる。もう大丈夫なのかよ?」
彼が目を閉じて狂気も殺気も治まり、静かになった。しばらく警戒を解かないで睨んでいた小紅以外だったが、場違いな寝息が聞こえてきて拍子抜け。
穏やかな表情のまま眠ってしまったらしい桜樹の頭を、高遠が刀の鞘で小突く。反応がない。すっかり熟睡しているようだ。
「まったく、人騒がせな奴だ。だがまだ油断はできない。俺と鳶で見張っているからな」
「ん、悪いけど頼むよ。僕は紅ちゃんに話があるから、ほら、さっさと解散解散!」
鳶が眠っている桜鬼を担ぎ、和鷹と共に部屋を出る。続いて、残りの高遠と雪、猫を抱いた猫丸がチラッと振り返りながらも出ていった。
まだ信用していないとはいえ、雪も猫丸も小紅を心配していた。だからケガはないかと近寄ろうとして黒鷹と目が合い、やめた。
黒鷹はずっと小紅を見ている。突き刺さるような視線が痛い。何を言わんとしているのか、小紅にはわかっている。
「私のせいでこのような、申し訳ありません。数々のご無礼、勝手をお許しください」
だから、向き直って額を畳に擦りつけるほどに深々と頭を下げた。黒鷹の足元で、細く整った指先をそろえて「ごめんなさい」と呟く。
「本当、君のせいだよ。桜樹のことを知らなかったとはいえ、さっきのアレは身の程知らず。心臓が止まるかと思った」
腰を下ろし、スッと伸ばした左手で小紅の顎をつかむと顔を上げさせ、まっすぐ見つめる。
口調は穏やかなのに夜の湖面を思わせる青い瞳は不安げに揺れていて、振り上げられた右手が小紅の頬をパァンッ!と叩いた。
「もう2度と、あんな危険な真似はよしてくれ」
痛い。頬が。ジンジンして、熱を帯びる。まさか叩かれるとは思わなくて、胸が痛い。叩かれたのはこれで2度目。赤黒い瞳に涙がにじみそうになるが、小紅は我慢した。
「っ…………すみません、でした……」
目を見ることも顔を向けることもできなくて、彼の手を振り払うように下がって再び深く頭を下げる。
すると一気に引き寄せられた。力強くたくましい彼の腕の中に納まった小紅は言葉を失い、何が起こったのかさえまだわからない。
ただわかるのは、密着している頬に伝わってくる彼の鼓動。ドクンッドクンッと強く早く響く鼓動は、彼の心そのもの。
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