鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
78 / 386
桜樹と桜鬼

3P

しおりを挟む

 桜樹の右腕を押さえている大きな影――鳶が、なおも動こうとする右腕をひねり上げる。

 桜樹の左腕を押さえている小さな影――猫丸は足で挟むようにして踏みつけて、そのうえ猫達に噛みつかせている。

 ということは、背後の3人は高遠と雪と和鷹だな。一際強い殺気を放ちながら黒鷹の肩越しに刀を突きつけているのは和鷹か。

 胴体を仰向けに押し潰され、両手を拘束されている桜樹はそろった面子を睨み付け、小紅に目を向けると「チッ」と悔しそうに顔をゆがめた。

 悔しさの奥にある寂しさに気付いたのは小紅だけだったのか。気づいた時には小紅は、敗北を悟った桜樹の傍らに座り肩に触れていた。

「私、あなたが怖くありませんよ。突然のことに大変驚きましたが、あなたも、優しい桜鬼さんも同じ“おうきさん”ですから。あなたはもう誰も殺さない。どんなに酷いことをしても、謝ってくれるって信じています」

 それは小紅の本心。もう、手は震えていない。しっかりとした口調で、はっきり聞こえる声で、まっすぐ桜樹の赤い瞳を見つめながらそう言った。

 この場にいる小紅以外が同時に息をのんだ。そんな近くにいては、触れてしまえば桜樹が暴れる。鳶と猫丸を振り払い小紅に襲いかかる。そう思ったのだろう。

 しかし桜樹は大きく目を見開きポカンと口を開けただけで、時が止まってしまったかのように動かない。瞬きさえしない。

 恐怖のあまり狂ったのか、恐れ知らずな小紅の行動に度肝を抜かれ黒鷹さえも彼女を下がらせようとしないでいる。

 そうして少しの時間が流れ、やがて、力のない笑い声が響いた。

「あっはははははは………………そうかそうか。君、面白い子だとは思っていたけど、まさかこれほどまでに面白くて八つ裂きにしてやりたいほど可愛いとは思わなかったよ!」

「私は可愛くなんかありません。だから、可愛くない私は可愛い方が好きな桜樹さんに殺されません」

「えぇー、そういうところが憎たらしくて可愛いんだよ。はぁ……」

 笑った。全身の力を抜き、何かを見つけた赤い目を閉じた桜樹は笑って、深呼吸をした。それはまるで、全ての終わりを迎えた時のような穏やかな微笑みだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

戦国の華と徒花

三田村優希(または南雲天音)
歴史・時代
武田信玄の命令によって、織田信長の妹であるお市の侍女として潜入した忍びの於小夜(おさよ)。 付き従う内にお市に心酔し、武田家を裏切る形となってしまう。 そんな彼女は人並みに恋をし、同じ武田の忍びである小十郎と夫婦になる。 二人を裏切り者と見做し、刺客が送られてくる。小十郎も柴田勝家の足軽頭となっており、刺客に怯えつつも何とか女児を出産し於奈津(おなつ)と命名する。 しかし頭領であり於小夜の叔父でもある新井庄助の命令で、於奈津は母親から引き離され忍びとしての英才教育を受けるために真田家へと送られてしまう。 悲嘆に暮れる於小夜だが、お市と共に悲運へと呑まれていく。 ※拙作「異郷の残菊」と繋がりがありますが、単独で読んでも問題がございません 【他サイト掲載:NOVEL DAYS】

処理中です...